住宅

建築家に頼むということ~メリットとデメリット~

建築家メリットデメリット

「建築家」は得体が知れない

家づくりを考えるとき、業者選びが最初の問題となります。

業者選びは家づくりの最初のフェーズですけど、
その後の結果を大きく左右する大事な部分でもあります。

皆さんも、ネット上の評判を見たりしながら
「A社がいいかな、B社がいいかな」と選び悩まれることと思います。

 

で、普通はその過程で建築家という選択肢が見え隠れするのですが、
まあ大体の方は建築家は得体が知れないという印象を持っていて、
検討の中で真っ先に切り捨てます。

建築家ってのは確かに独特な選択肢なんですけど、
メリットとデメリットが極めて明確な選択肢でもあります。
うまくハマる方はハウスメーカーよりも満足いく家づくりができるはずです。

実際、ネット上には「家づくりに失敗した!」と嘆く方の意見が多いですけど、
本当は建築家に頼んだ方が幸せになれたんだろうなーって人も沢山います。事実です。

そんな方々までもが建築家を切り捨てるのは、
たぶん建築家に関する情報が少なすぎるからです。
得体が知れないからです。

 

そこでこの記事では、そんな得体の知れない連中

  • どんな仕事をして
  • どんな打ち合わせをして
  • どんな家を作るのか

について語ろうと思います。

建売やハウスメーカーは分かりやすい

家づくりには沢山の選択肢があります。
新築戸建に限ってもこんな↓に選択肢があります。

  • 建売
  • ハウスメーカー
  • 工務店
  • 建築家

 

建売は1番分かりやすいです。
できあがった製品を見せられて「○○万円です。買いますか?」の世界なので、普通の買い物と同じです。

ハウスメーカーは2番目に分かりやすいです。
大半は規格型住宅だったりするので、家づくりの時もまずテンプレートがあって、セミオーダーで家を組み立てて「○○万円です。買いますか?」となります。カタログを見ながら買い物する感覚に近いです。住宅展示場なんかもたくさんあるのでイメージもしやすいです。

工務店は3番目に分かりやすいです。
ハウスメーカーみたいに規格型住宅を手掛けるところはとても分かりやすいです。
そうでなくても、地元密着型の工務店なら施工事例が身近にあるパターンが多く、価格や品質をイメージしながら買い物することができます。

これらの選択肢なら
A社で建てれば○円で豪奢な感じになるけど、
B社だと△円でシンプルな感じだな…などなど、
具体的イメージを持って比較検討を進めることが可能
です。

ケンカタくん
ケンカタくん

まあそれでも結構難しいことなんだけどね!建築って難しいんだよ!

建築家は本当に全然分からない

ところが、建築家に頼むとなると

途端に分からない感が漂ってきます。

 

建築家に頼むと、

どういう風に物事が進んで、

どういう物がいくらで手に入って、

それは得なのか損なのか、

そもそもどうやって頼むのか。

 

こういう大事な情報が完全にユーザーからは見えません。
もう一周回って分かる人には分かるんだろう的な鎖国感すら感じます。
分からなさすぎてえらいことになってます。

結局、建築家に頼むのは得なのでしょうか損なのでしょうか。

建築家に頼むとはどういうことなのか

何から何まで全然分からん!責任者出てこい!って人が多そうなので、

何から何まで一級建築士が説明します。ついてきてください。

まずは建築家に頼むメリットとデメリットをご紹介します。

建築家に頼むメリットとは

建築家に頼む最大のメリットは、

家造りの全工程に建築家個人が関わってくれる点にあると言えます。

建築家という選択の価値はこの点に凝縮されています。詳しく見てみましょう。

建築家の仕事とは

人が家を建てるとき、そこには以下のような順序があります。

土地探し→設計→施工→検査→引き渡し→アフターフォロー

建築家の仕事はこの全ての面倒を見ることです。

建築家というと設計だけのイメージが強いですが、
実は施工会社の選定や工事の監理まで行う人がほとんどです。(施主の要望によります)

土地が決まっていなければ不動産屋巡りにも協力してくれる場合があります。

つまり、建築家に「家を建てたいんだけど」と相談すれば、
計画ゼロの状態から家を建てて引き渡すまでをプロとして案内してくれるのです。

ハウスメーカーと建築家を比べると

これがハウスメーカーだとどうでしょうか。

もちろん、ハウスメーカーも全ての面倒を見てくれます。

でもそれは会社でマネジメントしているに過ぎなくて、
実際は工程ごとに当が切り替わることがほとんどです。

土地探しと初期の打ち合わせは営業担当、
設計は設計担当、
施工は施工担当、
アフターフォローはメンテ担当が行うのであって、

良い言い方をすれば高効率、悪い言い方をすれば流れ作業です。

あなたにとっての窓口がコロコロ変わるのです。

ケンカタくん
ケンカタくん
契約した途端に担当営業が音信不通になったなんて話も聞くよね!

一方、建築家は本当に全ての面倒を自分で見ます。

土地探しで不動産屋巡りに立ち合い、設計は自分で行い、施工会社は自分で選定し、監理も自分で行う。引き渡しの場にも立ち合い、アフターフォローも全て自分で取りまとめる。

とにかく、あなたにとっての全ての窓口が建築家でになるのです。

建築家の向こう側の仕事は全て建築家が自分で見る
これが建築家の仕事です。

つまり、建築家に頼むということは、

家づくりに関する全てのマネジメントを、建築家という技術者個人に依頼することなのです。

 

建築家の魅力は「完全な一貫性」

建築家という技術者個人の度量で住宅を作ってもらう。
それが建築家に頼むということだと言いました。

建築家という個人が家づくりの全てを取り仕切るわけですが、
建築家の頭の中には常に完成図がありますから、
要所要所で判断を迫られたとき、建築家はブレずに指示できます。

その結果として、家づくりの内容に「あなたのための完全な一貫性」が生まれます。
それが建築家の魅力です。

 

これは担当者がコロコロ変わるハウスメーカーでは絶対に為しえない点です。

担当者の人数が多くなるほど、各人の頭の中にそれぞれ違った「あなたの為」があるので、
要所要所で指示がブレることになります。
そういったブレを防ぐために設計図などの資料があるのですが、設計図に描ける情報量には限界があります。皆さんが思っているよりも現場で判断する物事は多いのです。

 

もう一度言いますけど、

一人の技術者が全部の面倒を見てくれる点が建築家の最大のメリットで、

その結果生まれる「あなたの為の完全な一貫性」が最大の魅力なのです。

余談:小規模経営の工務店はどうなのか

工務店には、一人の担当が全て自分で面倒を見る(=建築家と同じ)ケースも存在します。
小さな工務店で親方が全部の面倒を見ている場合などが代表的です。

筆者は「個に特化した工務店」と「建築家」の明確な定義分けは難しいと考えています。

事実、優秀な工務店の優秀な技術者の中には「建築家」と呼んで差支えないようなプロフェッショナルも存在します。そういう方に頼めば、建築家に頼むのと同じような一貫性ある住宅が出来上がるでしょう

ちなみに、そういう工務店はやはり人気店・優良店として名前が売れている場合が多く、
技術系の雑誌を読むと頻繁に名前を見たりします。小さい工務店の施工例が省エネの優秀な実例として取り上げられている~とか。
地元にそういう工務店があったら狙い目です。

余談:人を雇っている建築家は自分で全てを見ないのでは?

建築家は一人で作業すると言いましたが、人を雇って仕事を割り振りしている建築家もいます。

ですが、そういう事務所でも普通は少人数を謳っていて、建築家本人が全ての工程に目をかけるようにしていて、要所には建築家本人が出てくる場合も多いです。ハウスメーカーに感じられるような流れ作業感は無いでしょう。

逆に言えば、人を雇いすぎてゼネコン化&量産化しているような建築事務所には、
建築家本来の魅力である一貫性ある住宅は期待しにくいかもしれません。

建築家に頼むときは、本当にその人(建築家)が一貫して面倒を見てくれるのかを確認するようにすると、間違いが無いかもしれませんね。

建築家に頼むデメリットとは

建築家に頼むことによるデメリット、これももちろん存在します。

  • 費用
  • 工期
  • 手間
  • 流通性(再販性)

この4点です。順番に見ていきましょう。

費用が高い

まず、なんといっても費用の面。これは皆さんも一番気になるところでしょう。

これはもう建築家によって千差万別ではありますが、

建売住宅よりは絶対に高いし、注文住宅よりもおそらく高い

と言い切ってよいでしょう。

建築家の作る家は”一品モノ”ですから、規格化や大量生産で低価格を実現している住宅には太刀打ちできません。
残念ですが、建売住宅と同じ価格で~とか考えたい方には厳しい道のりです。

ですが、総費用は高くてもコストパフォーマンス(コスパ)の面では概ね優れています。

建築家の住宅は完全オーダーメイドですから、あなたに必要ない機能を上手に省略したり、コストダウンを図ることも可能です。

ウォークインクローゼットが要らなければ削りますし、
床材にコダワリが無ければ安価で頑丈なものを使いますし。
寝室が狭くてよければそのスペースも他に回しますし、
来客が少ないなら余分な部屋も作りません。

無駄を削って必要なところに全力を注ぐスタイルを取ることで、住んだ時の満足感を維持しながらコスト削減が狙えます。費用対効果は高いと言えるでしょう。

従って高コストだが無駄がなく、満足感も高いというのが建築家の基本概念です。

建築家への報酬はいくらぐらいなのか

建築家への報酬の相場は総工費の10~15%です。

これを設計監理料として請求されるケースが大半です。

総工費が2500万円だったら300万円ぐらいが追加される感じだとおもってください。

一般的な注文住宅の見積を見ると設計監理料は50万~100万円とかなので、
ハウスメーカーと比べるとずいぶん高い気がしますが、これに関しては得だとか損だとかを判断するのは難しいです。

まず、建築家に頼むことによってローコスト化される部分があるからです。
馴染みの施工業者を使ってくれたり、安い材料をうまく使って設計してくれたり、そういうコストダウンがまずあります。

さらに、ハウスメーカーの設計監理料なんてのはインチキもできるからです。
設計料ってのは顧客の目につきやすい(値下げ交渉されやすい)項目ですから、ハウスメーカーは大体安く書いています。
「設計料」を安くして「一般管理費等」を高くすれば会社としては±0です。だからハウスメーカーの設計料なんてテキトーなのです。

たまに「自社設計だから設計料は0円です」なんてフザケタことを言うハウスメーカーを見ますけど、自社設計だろうが何だろうが設計のために手を動かして名前を出す建築士は存在するわけで、その人の給料は会社から出ているのですから、絶対に何かの名目でお金は取られているはずです。

ローコストの専門家も存在する

建築家の中には「ローコスト住宅」を集中的に手がける人もいます。
庶民派のプロフェッショナルです。

規格品や工場生産を工夫して使い、
工事業者とも上手く交渉して、
なるべく安価に住宅を作る。

ああ格好いい。本当に尊敬してます。

こういう人に依頼することができれば、想像より安くオーダーメイド住宅を作ることができるでしょう。ハウスメーカーの注文住宅より安く済む場合も大いに有り得ます。
建売住宅より安く済む場合はまず有り得ませんけど。

工期が長い

これも建築家によりますが、
ハウスメーカーよりもずっと時間がかかると考えてよいでしょう。

というのも、建築家の作る家は本当にゼロからのオーダーメイドですから、
設計にすごく時間がかかるのです。

まず土地を見て、施主の生活スタイルをヒアリングして、想像に想像を膨らませた後、
柱1本から描き始めるのです。これは相当な作業量です。

多くの建築家は設計に0.5年、施工に0.5年、合計1年の工期を理想としています。

注文住宅の工期は半年ぐらいですから、建築家に頼むと2倍近く時間がかかることになります。早く家を買いたいときは工期の長さがネックになると言えるでしょう。

ただし、設計に時間がかかるというのは「時間をかけてくれる」ということでもあります。
それだけ丁寧に仕事をしてるということなので、デメリットと断じるのは言い過ぎかもしれません。

基本的に、設計は時間をかければかけるほど良いものになっていきます。
長い時間をかけて図面を眺めていると、即席の設計では気付かない”何か”に気付くことがあります。筆者もよく経験するのです。

手間がかかる

建築家との家づくりは打合せの回数も密度も尋常じゃないと言ってよいです。

工期の話と被りますが、とにかくゼロからのオーダーメイドである以上、
決めることがハンパなく多いのです。

 

ちょっと例を挙げます。

ハウスメーカーの規格型住宅ではサラサラッと打ち合わせが進みます。
こんな感じ↓

パントリー要りますか。
洗面台はこれでいいですか。
窓にオプション付けますか。
壁紙のテーマを選んでください。

これが建築家との打合せではこう↓なります。

パントリーが欲しいですか。
奥さんは一回の買い物でどのくらいの食材を買いますか。
パントリーにはどういうものを置きたいですか?
備蓄品はどのくらいですか。旦那さんも使いますよね。旦那さん身長はいくつですか。
お子さんが成長したら家事を手伝わせたいですか。
じゃあサイズはこのぐらい、配置は勝手口の近くでスケッチしてみましょう。
あ、そうそう。仕上げはこの見本から選んでみてください(数十種類)。気に入ったのがなければもっと提案しますよ。

多少大袈裟に書きましたが、まあ実際こんな感じで話が進みます。
決めることは山ほどあるのです。

だからまあ、休日を家づくりに全振りするぐらいの気迫が求められます。
設計中は家づくりが趣味でないといけません。忙しい人にとってはネックでしょうね。

まあこれも裏を返せば「手間をかけてくれる」ということなので、転じてメリットでもあるのですが。

 

ケンカタくん
ケンカタくん

“建築家におまかせ”を連発して打合せ回数を減らすこともできるよ!それでも多いけどね!

流通性(再販性)が悪い

別角度からの意見ですが、建築家に建ててもらった家はやっぱり売りにくいです。

建築家の家はオーダーメイドの家ですから、
それはもうとにかくあなた向けに作られているわけですね。
あなたのライフスタイルだけに焦点を当てて作り上げた専用住宅なのです。

となるとやっぱり中古には回しにくいです。
あなたにとって使いやすい仕様でも、別の人にとっては使いにくい仕様かもしれないからです。
オーダーメイドであることそのものがネックになるというわけですね。

そういう意味では建売住宅の方が絶対売りやすい(売った時の損率が小さい)はずです。

まあ、売却を前提に建築家に頼む人は少ないと思いますけど。

 

建築家に頼むのは得なのか損なのか

建築家に頼むメリットとデメリットを挙げましたが、
建築家に頼むことは結局得なのでしょうか、損なのでしょうか。

まず結論を言ってしまうと得する可能性は高いが、あなたの状況と建築家によるということになります。

今までの議論のとおり、建築家に頼むとあなた専用の住宅が出来上がります。

基本的に無駄がなく、あなたにとって本当に使いやすい家ができるため、
出すお金に対する満足感(=コスパ)という点では相当お得だと言えるでしょう。力強くお勧めします。

 

一方、コストも高いです。

総費用もそうですが、工期が長かったり、打ち合わせが多かったりと、金銭的にも労力的にも結構ハイコストです。こうした点が譲歩できない方は、建築家に頼むと損した気分になるかもしれません。

“お手軽さ”と求める方には絶対に向いていません。

また、どういう建築家に頼むかによっても結果が全く違います。
なんといっても建築家は「個人」ですから、その人によってやり方も考え方も全く違います。

先にも少し述べましたが、費用も工期も打ち合わせ回数も、建築家によって千差万別です。
「ローコストを手がける人」から「奇抜な豪邸を建てる人」まで、本当に色々なタイプの建築家がいます。
自分に合った建築家を探せるかどうかで満足度が大きく(本当に大きく)変わると言えるでしょう。
建築家を探すのにも時間がかかるとを予め見込んでおくべきです。

あなたは建築家に頼むべきなのか

結局のところ、あなたは建築家に頼むべきなのでしょうか。

私の結論としては、建築に対してかけられるコスト(費用と時間)が確保できる方、または「良い家に住みたい」という熱意がある方については、建築家への依頼を強く奨めるという結論になります。

建築家に頼むとよい人物像

  • 費用と時間に多少余裕がある人
  • 家づくりへの熱意がある人

まず、時間も熱意も無い方は検討を止めるべきです。
散々述べたとおり、建築家に依頼するととにかく時間がかかります。
費用も時間も無い方はもちろん止めるべきですし、
費用はあるけど時間が無い方も、基本的には止めた方がよいでしょう。

次に、費用が無いけど時間も熱意もある方は、ローコスト特化の建築家を探せば実現が可能です。
相応の熱意が要りますが、うまくいけば満足度の高い住宅が手に入ります。
建売住宅を買う前に検討する価値はあるでしょう。

最後に、費用も時間も熱意もある方には建築家への依頼を推奨します。
実力ある建築家に頼めばハウスメーカーで注文住宅を建てるぐらいの金額でより素晴らしい住宅が手に入ります。コスパは良いと言えるでしょう。

長くなりましたが、建築家に頼む意味について論じたつもりです。
皆さんの家作りの参考になれば幸いです。