日々の防災を考えるとき、避難所におけるトイレの考え方は極めて重要です。
避難所生活におけるストレスとして、「トイレ環境の悪さ」を挙げる方は大変多いものです。
水資源が限られる場所で清潔なトイレ環境を維持することは大変難しいもので、
普段のトイレと比べてどうしても汚い環境になってしまい、ストレスとなるのです。
私の仕事においても、災害時の避難拠点になるような大規模施設を設計する場合、
災害時のトイレの確保方法は必ず検討するよう求められます。
最近は商品も充実してきて「え、これ仮設トイレなの?」って思えるぐらい高性能なものも流通しています。
そんな中、今年の春に発売されたレジリエンストイレという商品が画期的すぎるというかああ、これが最強のやつだなと思ったので、鼻息荒めに紹介しようと思います。
どちらかというと施設管理者向けの話ですけど、そうでない皆様におかれましても「ふーん。こういうトイレもあるんだ」というのを知っておくと、日々の防災意識向上に役立つかもしれません。
というか、あなたが施設内のトイレを決定できる立場にあるなら是非このトイレを検討してください。よろしくお願いします。
Contents
LIXIL製のレジリエンストイレ
今回紹介するのはLIXIL製のレジリエンストイレです。
2019年春に発売されて以降、なんだこの商品は!って感じで防災業界で注目を集めています。
どんな点が最強なのでしょう。順番に見ていきます。
災害時にもそのまま使える
このトイレは常設タイプです。
つまり、普段は施設のトイレとして普通に使いつつ、災害が起きた時もそのまま使えるというものです。
筆者に言わせるともうコレだけでノーベル平和賞をあげたいぐらいの快挙です。
ちょっとその理由を聞いてください。
災害用トイレは「仮設」が一般的だった
今までの常識として、災害時のトイレっていうと仮設タイプが一般的でした。
つまり、災害が起きた後に倉庫から出してきてヨッコイショと据え付けるタイプです。
こういうのはやはり仮設トイレやなあ感が強くて、常設トイレと比べると精神的にクるものがあります。
ただまあコレはコレで技術革新が続いていて、昔と比べるとかなり高性能なものが増えてきたのも事実です。
マンホールの上に設置して汚物をそのまま下水に捨てられるものとか、
バリアフリー対応で広~い内部空間を確保したものとか、
個室だし水洗式だし本格的に常設レベルのものとか、いろいろあります。
個室タイプのものなんてかなり常設タイプに肉薄していて、特に最後のヤツなんか使用感は全然悪くないんですけどね。
でも高性能な仮設トイレは高価です。普段必要ないモノに100万円近く払うってのは誰だって抵抗があると思います。災害時の必要数を高性能トイレで満足に確保できる施設ってのは限られるんじゃないでしょうか。
また、トイレ本体をストックするスペースが広く必要なのも施設管理者にとって負担になります。
じゃあ安いもので我慢するかってなると、やっぱり常設トイレと比べるとなんだかなあ…っていう不満があるわけです。これはまあ言ってしまえばワガママなだけなんです。でもそれが長期的に続くとストレスになるので、やはり妥協するべきではないのです。
- 清潔感に乏しい
- 普段使わないのでムダ金感が強い
- 良いものは高い
- ストックヤードが必要
レジリエンストイレが仮設トイレの悪い点を解決する
そんな中、常設トイレを仮設トイレとしてそのまま使えるってのは最強なのです。
なんといっても普段も使うところですから、清潔感があるし、ムダ金にならないうえにスペースも食わない点が素晴らしい。導入の障壁がかなり低いのです。
特にこれから新築する施設においては、常設トイレと災害用仮設トイレを分けて設けるよりもレジリエンストイレを主にして考える方がキレイ・安い・省スペースってなことになりかねません。これは最強なんじゃないでしょうか。
- 普段と同じ個室で清潔感がある
- 普段も使うのでムダ金感が薄い
- 仮設トイレを削減できるので費用削減にもなる
- ストックヤード不要
今までの常設トイレだって災害時にも使える…のだが
誤解が無いように言っておきますけど、今までの常設トイレだって災害時にも使えます。
災害時にトイレが使えないのは水道が止まるからなので、自前で水を供給してやればトイレを使うことは可能なのです。
ただし、それには1回あたり6~8Lの水を流してやる必要があります。
これ、結構な水量です。
災害時に1人1人のトイレにこんな量流してたら確実に水不足になります。ただでさえ水は貴重なんですから。
単純に水が重いってのもネックです。6~8Lっていうとバケツ1杯分の水ですから、お年寄りや体の悪い方には大変な重さです。
だいたい、水が近くにあるかも分かりませんからね。
水場からトイレまで100mぐらいあるかも分からんのです。それを毎回バケツ持ってトイレに行くっていうのは、まあ疲労とストレスの源ですよね。
ですから、災害時に常設トイレを使うことは実質的に無理だよねと議論されていませんでした。避難所になるような大規模施設でも無理でした。水は貴重なのです。
TOTO:断水時のトイレの使用(洗浄方法)について
https://jp.toto.com/support/emergency/dansui_teien/dansui.htm
よく読んだら6~8Lの水を流した後さらに3~4L流せとか書いてありますね。個人宅ならいいんですけど、避難所でこれはキッツいなあ。
レジリエンストイレが最強なのは節水力
そこでレジリエンストイレの登場です。
このレジリエンストイレ、なんと1Lの水で流すことができます。
もうさっきの話と比べると全然違いますよね。
8Lが1Lです。8分の1て。どんだけ削減してんのって感じです。
これなら水不足の不安はかなり軽減されます。
お風呂1杯の水で150回流せるって言えば安心感が伝わるでしょうか。避難者が100人以上いても希望を持てる水量です。
水の持ち運びの問題だって、500mlのペットボトル2本持っていけばいいだけですから、お年寄りでも扱えるかもしれません。
ていうか健康な若者がバケツ1杯運んでくれればそれで8人が用を足せるのです。かなりハードルが下がりました。
普段の水洗には5リットル必要
ところで、災害時は1リットルの水で流せるんだ!節水なんだ!と聞くと
じゃあ普段も1リットルで流せるんじゃないの??とかいう助平心が出てきますけど、
1リットルでの水洗はやはり非常時専用で、普段の水洗には5リットル必要です。
というのも、1リットルだと公共下水まで汚物を流しきれないからです。
トイレからは汚物が消えるけど、その先の汚水管で詰まっちゃうよ!ってことです。
やっぱり水量が足りないと勢いも出ないのです。勢いが出ないと配管に詰まるのです。そういうものなのです。
大便は大便用の水量で流しましょう
ちょっと脱線します。
普通の家庭用トイレにECO水洗とかいうのが付いていることがありますね。
水量を抑えて水洗する機能です。
たまにそれで大便を流す人がいるらしいですけど、それはやめましょう。
理由は上で言ったのと一緒です。少ない水量だと大便が詰まる可能性があるのです。
ECO水洗でも大便は消えます。目の前の便器からは消えてくれますけど、たぶん公共下水に行き着くまでのどこかで休憩することになります。
そこに紙やら続砲やらが届いてしまうと団子状態になって最悪詰まるわけです。詰まらなくても配管が傷む可能性があります。
ECO水洗で大便を流すあなた、節約節水のつもりかもしれませんけど、配管が詰まったら節約した金額ぐらい軽く飛びますので、大便は大便用の水量で流しましょう。
レジリエンストイレでやらなきゃいけないこと
脱線から戻ります。
そういうわけなので、非常時に1リットル水洗を続けていると汚水管が詰まる可能性があります。
汚水管が詰まってしまうといろいろ流れなかったりカムバックしたりしてトイレまで非常時になります。
その対策として、レジリエンストイレを使うときは次のどちらかの対応が必要になります。
- 1番上の便器からバケツ3杯の水を流す(手動給水方式)
- 汚水処理用のポンプを動かす(汚水循環方式)
手動給水方式
1番上の便器からバケツ3杯の水を流します。頻度は○○です。
これはつまり、汚水管内で休憩している汚物どもを最上階から一気に押し流す作戦です。強硬策です。
特別な設備も機械も不要なので、突発的な災害下でも誰でもできるものです。
バケツ3杯の水は災害時には痛いですけど、レジリエンストイレの節水力の方がすごいので十分にお釣りがきます。
唯一の難点としては、バケツ3杯もの水を最上階に持っていかなくてはならないという点です。重くて大変。健康な若者に任せましょう。(健康な若者って便利だなー)
汚水循環方式
汚水処理用のポンプを動かして配管内を掃除する作戦です。
汚水系統にポンプや配管を追加しなくてはならず、事前の工事が必要です。
工事費用がかかることもネックですけど、最大の問題は配管ルートやポンプ置場の確保だと思います。
既設建物でそういうスペースが確保してある場合ってのはかなり少なくて、工事したくても現実的にできないって場合が多いと思います。
なので、この方式は基本的にこれから新築する建物に設計段階から入れておく方式だと思います。
設備投資が必要な分、非常に楽です。
ポンプを起動すればレジリエンストイレをフル活用できます。
もちろんポンプを使うのに電力が必要なんですけど、こういう設備を入れるような施設には自家発電機とかがあると思います。
まとめ:レジリエンストイレが業界標準になることを祈る
レジリエンストイレ、いかがでしたか。
避難所でもほとんど普段通り水洗トイレが使える未来が見えてきたでしょうか。
冒頭でも言いましたけど、避難所で使いにくいトイレを強いられるストレスってのは相当なものがあると思います。
常設型のトイレをそのまま使えるというのは、こうしたストレスに対する最高の解決策だと筆者は思います。
技術的な課題はレジリエンストイレが解決してくれました。あとは普及です。
避難所になるような大規模施設においてレジリエンストイレが普及するには時間がかかりますけど、このトイレの魅力を少しでも多くの方が認識すれば、そう遠い未来にはならないんじゃないかなと思います。
このブログを最後まで読んでくださった皆様(本当にありがとうございます)におかれましては、レジリエンストイレという素敵なトイレがあることを胸に秘めつつ生活していただき、機会あれば「こんなトイレがあるよ」ってことを布教していただけると幸いです。
また、LIXILに限らずトイレ業界全体において、レジリエンストイレの登場をきっかけに技術のブレイクスルーが起きて、これを更に改良したような製品が出てくると嬉しいな~とか思ってます。皆様ヨロシク。