建築

耐震性の自己診断~築年数と増改築歴から目安を探る~

古い住宅の写真

日本は地震大国です。

日本の建築技術は非常~にレベルが高いのですが、

大地震も相当多く、地震で倒壊する家は無くなりません。

 

我が家の耐震性は大丈夫か

こうした疑問を持つ方は大変多いでしょう。

 

そこで本記事では、

住宅の耐震性の考え方についてご紹介し、

あなたの家の耐震性をザックリと判断するポイントをお伝えします。

 

建築の最優先事項は人命の保存

 

建築における最優先事項人命の保存です。

 

安全よりも大事な物はありません。

安全性は、価格にもデザインにも断熱性にも優先します。

雨風凌いで命を守る。人命の保存こそが建築の源流です。

安全>その他

 

法律の目標=大地震でも死なない建物

建築法規には建物の構造を定める条項が沢山ありますけど、

そのほとんどは大地震でも人命を損なわないことを目標に設定しています。

地震大国・日本においては、地震から人命を守ることが最重要なのです。

ケンカタくん
ケンカタくん
火災・暴風・豪雪などが後に続くね

 

勘違いしないでほしいので念押しします。

建築基準法の場合、大地震の時は人命を損なわないことだけが目標になります。

建物は住めなくなってもいいから人命だけは助けてねってことです。

家は壊れていいけど、床ごと倒壊して人を潰すのだけはヤメテネってことです。

 

「大地震が来て家の資産価値がパーになった」って言っても、それは建築基準法の想定内です。

大地震の時は生存できればいいんです。法律はそういう考え方をしています。

 

それでも「一戸建て住宅」が倒壊することが多い

 

ところが一戸建て住宅において、地震対策は必ずしも十分と言えません。

震災の度にニュースになりますが、地震で倒壊するのはだいたい一戸建て住宅です。

21世紀の今になっても、地震で倒壊する家は少なくないのです。

 

これはやはり一戸建て住宅の規模の小ささに原因がります。

大規模建築物は沢山の人が利用しますし、予算の枠も大きいですから、安全性には十分お金をかけることができます。

耐震性のためのオプションが10個あれば10個とも採用することができます。

予算規模が大きいからできることです。

ケンカタくん
ケンカタくん
マンションが倒壊したって話は聞かないよね

 

一方、一戸建て住宅は限りある予算の中で建てますから、耐震にかけられるお金もやはり少ないです。

耐震工事のオプションが10個あったとして、その中から予算に合わせて2~3個選べれば御の字です。

実際、耐震性を売りにする注文住宅は数多いですけど、やっていることはメーカーによってかなり違います。

ですから、一戸建て住宅の耐震性が本当に十分かどうかは、

その家の成り立ちや経歴を見て個別に確認せざるを得ない場合が多いです。

 

自分でできる耐震診断の方法。どのくらい正確か

結論から言ってしまうと

あなたの家が本当に倒壊するかどうか

大地震が起きてみないと分かりません。

 

残念なことに正確な診断はプロでも難しいというのが実情なのです。

今にも崩れそうなボロ家が大地震に粘り勝つこともありますし、

頑丈そうな住宅が地震一発で大破することも大いにあります。

本当のところは実際に地震に遭わないと分からないのです。

 

ですが、工学的・統計的な根拠を元に目安をつけることは可能です。

あなたの家は地震に”きっと”耐えられるのか

それともほとんど勝算が無いのか

そのくらいなら簡単な情報だけで判断できます。その方法をこれから紹介します。

結果が良ければひとまず安心していいですし、

悪ければ今後の対策のきっかけにするといいです。

 

ケンカタくん
ケンカタくん

超高層ビルを建てるときなんかはコンピューターを使って超精密なシミュレーションを行うんだよ!この場合はかなり正確な診断が可能なんだ!

 

簡易耐震診断① 建てた時期によるチェック

建築関連法規は頻繁に改正されます。

特に、大震災があった後に大きく法改正される傾向があります。

震災によって現行建築物の欠点が洗い出され、それを補うべく後追いで法改正があるのです。

例えば、阪神淡路大震災の後に耐震性に関する諸条項が一新されました。

 

一度厳しくなった安全基準というものは普通緩和されません。

つまり、建築関連法規は基本的に厳しくなる一方です。

従って、新しい建物ほど厳しい耐震基準をクリアしているという図式が成り立ち、耐震性の大まかな目安にすることができます。

建物が建った時期は結構大事なのです。

 

さて、耐震性に関して特に大規模な改正があったのは過去に3回。

1981年、2000年、2006年です。順番に見ていきましょう。

 

1981年(昭和56年)が大きな境目

 

まず、最も大事なのが1981年(昭和56年)の法改正です。

耐震基準が大幅に見直され、大地震でも倒壊しないことが目標として明確化されました。

大地震からの人命保存を明文化した記念すべき改正だと言えます。

 

ケンカタくん
ケンカタくん

逆に言うと、1980年以前は「大地震なら倒壊しても仕方ない」って考え方だったんだ!

 

この改正の効果は本当に大きく、この年を境に建物の安全性はガラッと変わります。

そのため、この年より前に建った建物は旧耐震基準

この年以降に建った建物は新耐震基準という言い方をします。

 

1995年の阪神淡路大震災において多くの建物が倒壊しましたが、

そのほとんどは旧耐震基準のものであり、新耐震基準の全壊はごく僅かでした。

新耐震基準の建物は震度7にも概ね耐えるのです。

 

2000年(平成12年)は木造住宅の法改正

 

木造住宅にとって次に大事なのは2000年(平成12年)の法改正です。

阪神淡路大震災を受け、直下型地震に対する木造住宅の在り方が問われ、基礎の基準などが見直された改正です。

この時も建物の安全性が大きく変わったと言えます。

木造住宅がメインなので、鉄筋のマンションなどは関係ありません。

 

2006年(平成18年)はマンションの法改正

 

最後に、マンションにとっては2006年(平成18年)の法改正も大きいですた。

 

某一級建築士による耐震偽装事件を受け、

中~大規模建築物における性能規定及びその検査方法が全体的に見直されたのです。

マンションの安全性はここを境に変わります。

 

法改正のまとめ

 

耐震性に関する大きな法改正は以上です。

他の年にも法改正がありますけど、細かい話になってくるので取り上げないこととします。

1981年を大きな境とし、さらに木造住宅なら2000年、マンションなら2006年に差が出てくると言えます。

新しいものほど耐震性が高く安全であると結論して構いません。

 

もう一度言いますが、特に影響が大きいのは1981年の法改正です。

1981年より前の住宅はかなり危険な場合が多いです。

直下型地震で倒壊する(死者が出る)可能性が高いです。

やや辛辣な表現をすれば、常に命の危険があると言ってもよいでしょう。

1981年より後の新耐震基準であれば大地震でも一応倒壊しないはずです。一応。

 

簡易耐震診断② 増改築歴によるチェック

 

増改築の履歴もかなり大切です。

具体的には、増改築を1回でもやっている家はそれだけで黄色信号ですし、

2回以上繰り返している家はほとんど赤信号です。

耐震診断がまだの場合は、すぐに専門家に相談するべきだと思います。

 

増改築とは

 

増改築というのは、

既存建物の構造部分に大幅な変更を加えることを指します。

部屋を一つ増やすとか、平屋に二階を作るとか、そういうことです。

壁紙の貼り替えとか、キッチンのやり直し程度なら、増改築には当たりません。

構造体をいじるかどうか、が大切です。

増改築にあたる例 外壁を壊して部屋を増やした
二階部分を増設した
階段の位置を変えた
二階の床を壊して吹き抜けにした
増改築にあたらない例 壁紙とフローリングを全部やり直した
間仕切り壁を壊して部屋を広くした
二階の天井を壊して屋根が見えるようにした

 

増改築は結構簡単⇒古い家は確認を

 

木造住宅の増改築は意外なほど手軽&容易です。

特に在来軸組工法の家なんかは、まともな大工ならサッと増築できちゃったりします。

だから増改築の歴がある住宅は案外多いです。

古い家は結構な確率でやっています。

あなたの家も古ければやっているかもしれません。

あなたが知らないだけかもしれませんので、家族や工務店に確認してみましょう。

 

増改築が耐震性に与える影響

 

一般に、増改築は耐震性にとってマイナスです。

増改築によって建物のバランスが崩れることが非常に多いのです。

 

当たり前ですけど、建物のバランスが一番良いのは新築時です。

当初設計のとおり建っている状態がバランス的にベストなのです。

増改築という行為は当初の設計思想からすると想定外なので、

それによってバランスを崩すのは必然だと言えるでしょう。

ケンカタくん
ケンカタくん

耐震性の検討だって当初設計の段階で行われているんだよ!

 

増改築はデメリットだらけ

 

ちょっと脱線しますけど、これは耐震性に限った話ではありません。

増改築によって、採光や断熱や換気の計画も狂う場合があります。

建物の性能という観点から言えば、増改築などしないに越したことはないのです。

増改築の設計施工にどれほど気を使っても、元の性能を完璧に維持するのは難しいです。

 

特に住宅規模の場合、

平屋には平屋の、二階建てには二階建ての作り方があったりしますから、

増改築は本当によろしくありません。

 

簡易耐震診断③ その他の欠陥によるチェック

 

欠陥が出る家は施工が悪い家です。

施工が悪い家は構造も悪い家です。

構造が悪い家は地震に弱い可能性があります。

つまり、欠陥がある家は地震にも弱い可能性があります。

 

耐震性に直接関係ない欠陥(例えば床の仕上げが雑など)でも同じです。

欠陥があること自体が施工の雑さを示しているので、

耐震性に係る部分も雑であると考えるべきです。

 

欠陥を一つ見つけたら、他にも欠陥が隠れている可能性を考えましょう。

欠陥がある家はその耐震性も疑ってかかるべきなのです。

施工が悪い家に頑丈な家は少ないと思います。

 

特に注意すべき欠陥5つ

 

特に重大な欠陥を5つ挙げます。

耐震性に直接関わったり、施工精度の悪さを示しているような欠陥です。

一つでも該当する場合、その家の耐震性は黄色信号です。

シロアリ 構造体がボロボロになっている可能性があり、耐震性に直接大きな影響があります。

一匹でも見つかった場合、全体的に防蟻効果が切れている可能性が高いので、徹底的な調査と駆除が必要です。

雨漏り 欠陥の代表格。

設計施工の全体的な粗さが疑われます。

構造体が腐食すれば耐震性にも直接影響します。

基礎コンクリートの不良

(じゃんか等)

基礎全体の施工不良が疑われます。

じゃんか自体は耐震性に直接影響しませんが、部分的に鉄筋の被り厚さが足りない場合などが考えられ、経年劣化で耐震性に影響してくる可能性があります。

不同沈下(家の傾き) 大きな欠陥の代表格。設計も施工も悪いです。

建物全体のバランスが悪い可能性も高いです。傾きによって構造部材に余計な負荷がかかり、当初設計の強度が見込めない場合があります。これは耐震性に不利です。

さらに、地盤も良くないと言い切れます。耐震性の観点からはっきり不利です。

内部結露(壁内結露) 施工の精度が疑われます。設計が悪い可能性もあります。

構造材の腐食に繋がり、耐震性に直接影響する場合があります。

 

特に注意したい欠陥を5つ挙げました。

施工精度は施工者(大工など)の質に大きく依存します。

欠陥が一つでも見つかったら、それは大工の腕が悪いということなので、

探せばもっと大きな欠陥が見つかるというのが筆者の考え方です。

一部の欠陥は全体の不安の表れだと思ってください。

 

ケンカタくん
ケンカタくん
すべての欠陥が「施工不良」だとは言い切れないよ!

そもそもの設計が悪い「設計不良」だってあるんだ。

 

まとめ

家の耐震性を大まかに判断する基準を3つ示しました。

  • 建てた年
  • 増改築歴
  • 他の欠陥の有無

いずれの基準でも問題なかった場合、その家は安心して住める可能性が高いです。

大地震で逃げる間もなく倒壊した…という事態は起きにくいと思います。

 

一方、どれか一つでも問題があった場合、積極的な対応をオススメします。

できれば専門家による耐震診断を受けてください。

 

耐震診断に助成金を出す自治体も多い

 

まずは自分の自治体が補助金を出しているかを調べましょう。

「●●市 耐震診断 助成」とかで調べてみてください。

【参考】東京都の補助金制度

 http://www.taishin.metro.tokyo.jp/jyosei/topic02_01.html

 

耐震の重要性をもう一度熱く語る

 

人命は最重要です。

間違いなく真理です。

 

ところが、安全への投資は後回しにされがちです。

これは危険のほとんどが目に見えないからです。

危険だという実感が乏しいからお金を出せないのです。

 

地震の危険もそうです。

耐震性への投資は日常生活の役に立ちません。

お金を出す気持ちになりにくいでしょう。

家に潰される自分を想像することが難しいからです。

 

そもそも、地震対策をしなくても平穏な日常を過ごすことはできます。

地震なんて滅多に来ませんから、ほとんどの日々は問題なく過ぎていくのです。

今までもそうだし、これからもきっとそうなのです。皆そう思っているのです。

 

ですが、地震はいつか突然やってきます。

 

耐震改修が住んでいない住宅は多いです。

その住宅が大地震に遭ったとき、

中にいる人の命はかなりの確率で失われてしまいます。

 

地震によって突然死んでしまう可能性がある。

この事実はもっと人を突き動かすべきではないでしょうか。

 

脅かすようですが、“そのとき”家にいるのがあなただけとは限りません。

危険な家に住み続けていると、あなたの大事な人を危険に晒す可能性もあります。

 

住宅の耐震は非常に重要なテーマです。

“防災”という大きなテーマの中でも、これほど人命に直結する問題は珍しいです。

 

耐震性の問題を指摘されても人はなかなか動きません。

対策には多くの費用と時間が必要です。

対策しても地震が来ない場合だってあります。

効果が分かりませんから、詐欺にあったような気持ちになることもあるでしょう。

腰が重くなるのも当たり前です。

 

しかしそれでも、

“そのとき”に後悔しないため、目をそらさず向き合うべきだと思います。

 

地震で倒壊する住宅が一棟でも減ることを願ってやみません。