前回の記事 :身近で知らない電気の話③~テスラとエジソンの電流戦争~
前々回の記事 :身近で知らない電気の話②~交流と変圧の話~
前々々回の記事:身近で知らない電気の話①~日本のコンセントの種類・電圧と電流って何だ~
前回の記事では電気時代の黎明期に直流と交流で戦争があったことをご紹介しました。
今回の記事でも引き続き電気に関する豆知識をご紹介します。
今回ご紹介するのは東日本と西日本で交流電源の周波数が変わるという事実です。
前回記事の歴史的な話とは違って、今回の話は今の生活にも影響を及ぼすような内容です。
「何それ?」って方は知っておいた方がいいと思うので、是非お読みください。
Contents
東日本と西日本でドライヤーの能力が変わる
実例からお話しします。
東日本と西日本ではドライヤーの能力が違います。

具体的に言うと、西日本で使う方が1.2倍くらい強くなります。
ドライヤーの機種が違うから?とかそういう話ではありません。
同じドライヤーを使っても能力が変化するのです。
ドライヤーだけじゃなくて扇風機や掃除機も性能が変わります。
モーターを使って動くモノは基本的に同じことが言えると思ってください。
原因は”周波数が違うから”
こんな奇怪なことが何故起きるかというと、東日本と西日本で交流電源の周波数が違うからです。
少し具体的に言うと東日本は50Hz、西日本は60Hzの周波数を使っています。
Hz(ヘルツ)は周波数の単位です。周波数の説明はあとでしますね。
東日本 | 50Hz |
---|---|
西日本 | 60Hz |
要するにコンセントに来る電気の性質が東西で違うわけです。
コンセントの見た目は一緒なんですけどね。
初耳の人は驚くかもしれませんけど「現代日本」での話です。
引っ越ししたことがない人(特に若い方)は知らない場合が多い知識ですね。
富士川と糸魚川が境目
ここでいう東西日本の境目は富士川と糸魚川を結ぶ河川です。

ちなみに、東日本と西日本の境目に明確な定義はありません。
電気業界での境目は上の図の通りなんですけど、他の業界ではまた違う境目を使っていたりします。
周波数が違うと使えなくなる機器も
周波数が違うと使えなくなる機器も存在します。
細かいこと気にしなければ使えるんでしょ?とかいうレベルじゃなくて、
周波数の違うコンセントに挿すとマジで壊れるのです。
別の言い方をすると、機械によっては東日本用と西日本用が別れているモノがあるということです。
例えばこの商品をご覧ください。50Hz用は東日本用、60Hz用は西日本用です。
電子レンジ(山善)-取扱説明書
一般的に洗濯機、乾燥機、電子レンジなどは周波数を気にする必要があります。
取扱説明書に書いてある場合が多いので確認してみましょう。
今はインバーターの技術が発達して50・60Hz兼用の機器も相当増えていますけど、昔は家電を買うときに周波数を気にするのが当たり前なのでした。
東西で周波数が違う理由
東西で周波数が違うよ!とか急に言われても意味が分かりませんよね。
なんでそんなクソみたいな仕様なん?ってのが皆さんの感想でしょう。筆者もそう思います。
これはまあなんていうか、明治時代の日本が先進国を後追いして無計画に頑張っちゃった結果なのです。その経緯を説明します。
発端は明治期の日本
発端は1889年。明治中期の日本です。
江戸時代が終わり、文明開化が叫ばれ、先進国の後追いをするのに必死だった頃です。
1889年、日本で初めての発電機がアメリカから輸入されました。
これは大阪に設置され、大阪電灯という会社が交流配電を開始しました。
日本初の電源インフラは1889年に息吹いたわけです。

このとき西洋ではテスラとエジソンの電流戦争が既に終わっていました。
というわけで、日本に初めて輸入された発電機は交流発電機です。
日本は初っ端から交流の恩恵を受けられたのでした。
少し飛んで1895年、今度は東京電灯が交流配電を開始します。
今度の発電機はドイツから輸入され、東京に設置されました。
で、これが大事なのですが、国によって周波数ってのは違います。
アメリカ製とドイツ製で発電機の周波数が違ったのです。
輸入した発電機の周波数が違った
アメリカ製の発電機は周波数60Hz、ドイツ製の発電機の周波数は50Hzでした。
東日本 | ドイツ製 | 50Hz |
西日本 | アメリカ製 | 60Hz |
当時の日本には発電機を自作する技術が無かったため、輸入した発電機をそのまま使うしかありませんでした。
東西で輸入した発電機の周波数が違うことには多分気付いたと思うんですけど、黎明期のイケイケ感なのか、相手が合わせてくれるだろうと思ったのか、大阪電灯と東京電灯の歩み寄りはありませんでした。
結局、東西で違う周波数が浸透してしまい、そのまま現在に至っているのです。
東西で同じ周波数を使おう!という協議は100年ぐらい前から何度か議論されているようですけど、統一の気配は全くありません。もう今なんかは絶対無理ですよね。インフラを変えるには設備規模が大きくなりすぎました。
50Hzと60Hzの混在は世界的にも珍しい
周波数の規格ってのは今も国によって違っていて、超大雑把に言うと南北アメリカは60Hz、アフリカヨーロッパは50Hzの傾向があります。
アジアは国によって全然違います。
ただ1つ言えるのは、日本みたいに50Hzと60Hzが混在しているのは超珍しいです。wikipediaによれば、他に同じ条件の国はバーレーンだけです。

日本よりずっと後に電気が通った国ですら周波数は統一されていますから、日本はなんか数奇な状態にあるんだなあと強く感じます。
歴史的な隙間に落ちてしまったというか、どっちつかずの国民性のせいというか、まあ変なのです。日本の電力事情は変なのですよ。
引っ越しの際は機器の対応状況を要確認
先ほども言ったように、この問題は「東日本用と西日本用が別れている機械がある」という現実的な問題として我々を襲ってきます。
東西をまたぐ引っ越しの際は、お手持ちの電化製品に周波数の縛りが無いかを必ず確認するようにしましょう。
洗濯機、乾燥機、電子レンジは特に注意すべきです。

電化製品の対応周波数については、消費電力が書いてある部分を読めば大体分かるようになっています。取扱説明書を読んでもいいですし、メーカーに直接問い合わせてもいいでしょう。安全に関することなのでメーカーも無下には対応しません。
なお、我々消費者にとってはありがたいことに、今売られている一般的な家電は50Hz・60Hzに両対応しているものが多いです。技術の進歩に感謝しましょう。
周波数って何だ
最後に周波数の意味について説明して終わりにします。
周波数というのは、1秒間に何回、交流電流の+と-が1周するかを示す数値です。
前々回の記事で説明したとおり、交流電源というのは+と-がすぐに入れ替わる電源のことなのでした。この入れ替わりの速度がどのぐらいかを表すのが周波数です。
50Hzの回路を見てみよう
具体的に見てみましょう。次のような交流電源を考えます。
交流電源なので乾電池の向き(+と-の向き)が入れ替わります。



※実際の交流電源では乾電池なんか使いません。分かりやすくするための便宜的な図だとご理解ください。
このとき、電池の+と-は0.01秒後に反転し、さらに0.01秒後には元に戻っています。
つまり、この電源は0.02秒で+と-が1周しています。(これを「周期が0.02秒」と表現します。)
さっき言ったとおり、周波数とは1秒間に何週するかを表す値です。
0.02秒に1周するなら1秒に50周しますから、この場合の周波数は50Hzとなります。
そして、60Hzの場合はもっと速いわけです。
1秒間に60周するわけですから、0.016秒に1周するぐらいのペースになります。
60Hzの方がなんとなくパワフルであることは分かってもらえると思います。
実際、ドライヤーのモーターなんかは周波数に比例して回転が速くなるので、50Hzと60Hzでは1.2倍の速度差が生まれるわけです。
まとめ
いかがだったでしょうか。
日本の東西では電源の周波数が違っていて、家電の使用可否に関わる場合があるのでした。
それが何故かというと、日本の電力の黎明期に大阪と東京で周波数が違う発電機を輸入してしまったからなのでした。
周波数の違いは「電化製品が壊れるかもしれない」という現実のデメリットとして我々の生活に降りかかっているのですが、最近の日本では50Hzと60Hzに両対応した家電が普及していて、特に若い世代の方はこの問題を意識せずとも生活できています。
ところがまあ、未だに対応できていないような機器も山ほどありますので、この記事を読まれた皆様においては、お引っ越しの際などに”周波数”に気を回していただけるといいと思います。ご清聴ありがとうございました。