理系雑学

身近で知らない電気の話③~テスラとエジソンの電流戦争~

前回までの記事で電気に関する基本的なことは大体お話ししました。

電気には電圧・電流・電力というパラメータがあって、さらに電源には直流と交流という種類があるのでした。
電気インフラの実用性としては交流の方がずっと優れていて、その理由は変圧が簡単にできる点にあるのでした。

ここからは余談です。電気にまつわる興味深い話をします。
技術的な話は少ないですけど、直流と交流の区別がつくようになった皆さんには面白い話だと思います。
電気の勉強をしたから理解できるご褒美みたいなものだと思って読んでください。たぶん話のタネにもなると思います。では始めます。

黎明期には直流電源が注目されていた

今までで言ったように、電源としては交流のほうが圧倒的に普及しています。世界のコンセントはたぶん全部交流です。
直流の電源インフラってのはごく限られた用途で、例えば電車の架電みたいなところでしか使われていません。
電源の世界では交流が覇権を握っていて、直流は脇役なのです。

ところが歴史的にみると、電気社会の黎明期には直流の電源も存在していました。
というか、本当に最初のころは直流の方が優勢でした。

直流=エジソン 交流=テスラ

直流の電源を発明・提唱したのはエジソンです。
交流の電源を発明・提唱したのはテスラです。

どちらも有名な発明家です。電気にまつわる発明を沢山していて、電気でインフラを作れば町が明るくなるんじゃないか、と画策している人たちでした。

直流を推す理由は”単純だから安全”

エジソンは、電気のインフラをすべて直流にしよう!と息まいていました。

直流は仕組みが単純だから早く安く街を明るくすることができる(特許を持っている自分も儲かる)と思っていたのです。

実際、交流をインフラ化しようとするテスラに対し、エジソンのインフラ構築は一歩先んじていました。仕組みが簡単で技術確立が早かったためです。

交流は難しいから見向きもされなかった

一方テスラは電気のインフラを交流で構築しようとしていましたが、初めは見向きもされませんでした。
何故かというと、交流が難しいからです。交流はとにかく難しいんです。

まず発電が難しいし、機械側も交流に対応しなきゃいけないし、感電した時だって交流のほうが致死率が高くて危険です。(どっちも危険ですけど)

とにかく複雑で難しくてなんでそんなもの使うの?ってな感じでみんなから無視されていました。

直流は発電所がたくさん必要

というわけで当初はエジソンが優勢で、実際に直流電源のインフラを整備していたのですが、そこで直流ゆえの問題が浮上しました。

前回の説明の繰り返しになりますけど、直流電源は変圧できません
低圧で電気を送るしかないので、送電の効率がめちゃくちゃ悪いです。

なので長距離の送電は諦めるしかなくて、短距離の送電のみでインフラを作る必要がありました。
つまり、街全体をカバーするために発電所をあちこちに建てる必要があったのです。

当時も直流を変圧することはできました。直流を交流に変換し、交流の状態で変圧し、また直流に変換すればよかったのです。
ただ、当時の技術では変換の過程で大きなロスが発生するため使い物になりませんでした。今は変換ロスも解決され、直流を変圧することはそんなに難しいことではなくなっています。

直流のインフラは局所的なものが限界だった

こうした飛び飛びの開発はすぐに行き詰まりました。
発電所を沢山建てるのはあまりにも効率が悪く、広域なインフラは諦めざるを得ませんでした

結局、街の中心部にだけ発電所を建ててインフラを整えることになったので、中心部以外では電源を使うことはできませんでした。
局所的には便利に電気が使えましたけど、一般市民が自宅で電気を使うなんてのは夢のまた夢でした。

交流なら広域インフラが実現できる

そこでテスラは変圧の有用性を説き、交流の有用性を説くことで、徐々に徐々に支持を集めていきました。
変圧によって長距離送電を実現できれば一般市民も広く電気が使えるんだと、そういう夢の未来を力説したのです。

ナイアガラの滝交流の水力発電ができることを証明して以降、交流電源の実用性は徐々に徐々に認知されていきました。

エジソンは電気椅子を作って抵抗した

交流電源ブームに対するエジソンの抵抗にはすさまじいモノがありました。
1番有名なのが電気椅子を発明したエピソードです。

電気椅子

実は電気椅子の発明者はエジソンです。
エジソンは交流が直流より危険であることをPRするために、交流電源を使った処刑用の電気椅子を企画し、動物実験を繰り返して実用化にこぎつけたのです。

ただ、こうしたネガティブキャンペーンは失敗に終わりました。
人々の脳裏に残ったのは「エジソンは残虐な人物」という圧倒的汚名で、エジソンはその行為で自身の名誉を大いに汚してしまったのでした。

エジソンの一連のキャンペーンは「電気は全て危険」というマイナスイメージも植え付けてしまい、電気の人気は直流も交流も関係なく下がりました。この点からも、エジソンのキャンペーンは大失敗だったと言えます。発明王のちょっと意外なマヌケエピソードですね。

電流戦争は交流の勝利に

そんなエジソンの後押し(?)もあり、交流の便利さは徐々に浸透し、電源インフラの覇権は交流が握ることになりました。
長距離送電を実現し、一般家庭に広く電気を届けることに成功しました。

そして交流電源インフラは世界的なスタンダードとなり、今なお現役です。

結局、交流は「変圧」という長所だけで電力インフラを勝ち取ったわけです。
交流の便利さは歴史が証明しているわけですね。

ちなみに、エジソンは直流電源インフラの構築には失敗しましたが、交流システムを受け入れ、交流電源用の機器を製作して実業的には成功しました。転んでもただでは起きないというか、発明王たる所以でしょうか。
ちなみに、このときエジソンが立ち上げていた会社が今のゼネラル・エレクトリック社です。

ケンカタくん
ケンカタくん
エジソンってやっぱり凄いんだね!

映画”プレステージ”でエジソンが襲ってくる理由

こうしたテスラとエジソンの戦いは色々な媒体でフォーカスされています。

クリストファーノーラン監督(筆者が超大好きな監督です)の超名作「プレステージ」でもテスラとエジソンの戦いが出てきます。

ただ、あくまでも舞台背景的な文脈で出てくるので、本記事で説明したような経緯は全然説明されません。
そのため、直流と交流の歴史を知らないと意味が分からないシーンが多いです。
エジソンがテスラを攻撃している理由がまず分からないと思います。

エジソンっていうと日本では「発明王≒人格者」ぐらいの認識なので、
テスラのことを完全に殺しに来る勢いのエジソンに驚くと思います。

まだ観ていない人は絶対見ましょう。面白い映画です。
※私が触れた部分は映画のネタバレでも何でもありませんので、安心してご覧ください。