耐震性の話の記事で増築を取り上げたところご質問を頂いたので、
増築について少し掘り下げた記事を書いてみたいと思います。
今回対象とするのは「住宅の増築」です。
これから増築をお考えの方に刺さる記事になればと思います。
Contents
増築ってなんだ
そもそも増築の定義が分からないとお話になりません。ザッと説明するのでお付き合いください。
例えば、既存住宅の横にカーポートを設けるときは増築になるのでしょうか。
これは結論から言うと“ケースバイケース”になっちゃうんですけど、その理由も合わせて説明します。
増築とは”床面積を増やすこと”
増築の定義を一言で表すと“工事で床面積を増やすこと”です。
今ある建物を拡充することは全て”床面積増=増築”にあたります。
床面積を変えない工事は改築と呼ばれ、増築とは違う扱いを受けます。
増築 | 床面積を増やす |
改築 | 床面積を変えない |
減築 | 床面積を減らす |
増築と建築確認申請
あなたの家を増築する場合、行政庁に建築確認申請を提出し、建築確認をしてもらう必要があります。

建築確認というのは、建築工事を始める前に、その設計の適法性を行政庁がチェックすることです。主に市役所の建築課が取り扱います。(外注している場合もあります)
ただし、その増築が特定の条件に該当する場合は建築確認申請が免除されます。
建築確認申請には結構な費用(14万円~)がかかるので、建築確認申請が必要か不要かってのは皆さんにとっても大事なことです。免除の要件↓を確認して損はないでしょう。
建築確認申請が不要となる場合(増築)
建築確認申請の要否は以下のフローチャートに沿って判断されます。

このチャートを読んでもらえればいいだけなんですけど、それすら面倒だ!って方のために超ザックリした目安を示します↓
増築面積10㎡が大きな境目
若干テキトーな仮定をしてよければ、皆さんの家はだいたい都市計画区域内に建っているでしょうから、ほとんどの人は増築面積が10㎡を超えたら建築確認申請が必要です。
10㎡は大体6畳ぐらいです。
防火地域・準防火地域では絶対必要
防火地域と準防火地域では増築部分の面積に関わらず絶対に建築確認申請が必要です。
増築面積が1㎡でも建築確認申請が必要になります。
ご自宅の敷地が防火地域に該当するかどうかは市役所のホームページで大体分かります。
一般的には、建物が密集している都市部ほどこういう地域に指定されやすいです。
建築確認申請をしないとどうなるか
建築確認申請が必要な工事なのにそれを怠った場合、以下のような実害が想定されます。
- 1年以下の懲役または100万円以下の罰金(建築基準法第99条)
- 取り壊し命令の対象になる
- 元の建物まで”違法建築”になる(隣地との延焼)
- 違法性があるまま存続することで、次の確認申請に支障が出る
いずれも、増築分の実態により判断が異なります。悪質な場合は①の刑罰まで行くでしょうし、悪意がない過失だけの場合でも②~④は有り得ます。
次の適法な建築確認申請が通らなくなる
筆者が特にヤバいと思うのは④でして、建築確認を得なかった増築分がある場合、次に適法な工事をしようとしたときに「あれ?これは何なの?」と問題になることがあります。
その場合、その増築が仮に10年以上前の工事だったとしても、そこをクリアしないと次の建築確認が通りません。
で、多くの場合10年以上前の違法工事なんて資料もクソも残っていませんから、その増築部分について遡って建築確認を通すなんてのは無理なので、実質的に次の工事ができない状態に陥ります。
家を売ることはもちろんできませんし、リフォームにも相当な制約が出ることになります。
あくまでも”ケースバイケース”の判断ではありますけど、最悪の場合こういうことになり得ると理解しておきましょう。
離れ・倉庫・カーポートも”増築”
家の増築に建築確認申請が必要なのは分かりましたけど、家の外に何かを作る場合はどうなるのでしょうか。
実を言うと、家の中だろうが外だろうが”床面積増”にカウントされることは変わらないので、離れ・倉庫・カーポートも増築扱いになります。つまり、先ほどのチャートに沿って建築確認申請を行う必要があるのです。
離れを作るのは母屋の床面積増として扱われます。つまり増築にあたります。(新築じゃないのです!)

倉庫を作るのも“母屋の床面積増=増築”になります。

カーポートは行政の判断が分かれるところですが、一般的には“母屋の床面積増=増築”と扱われる傾向があります。
離れを作る | 増築扱い(母屋の床面積に算入) |
倉庫を作る | 増築扱い(母屋の床面積に算入) |
カーポートを作る | 行政次第 |
↑これで増える床面積が10㎡以上の場合も建築確認申請が必要になります。
ところで、倉庫や離れが母屋の床面積に算入されることに違和感を覚える方もいるかもしれません。
実はこれは1敷地には1建物しか建てられないという原則に基づいています。
1敷地1建物の原則
知らない人はビックリしますけど、実は日本には“1敷地に1建物”という原則があります。
要するに、同じ敷地に作るモノは母屋と一体の床面積とみなされる(=床面積増)のです。
建築基準法の敷地の定義でそう定められているのです。
建築基準法施行令第1条
敷地 一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物のある一団の土地をいう。
これにより、1つの敷地内に2つ以上の家を建てることは原則としてできません。
家を2つ建てたい場合は敷地を分ける必要があります。(登記上の分筆までは不要です。複雑な話なので割愛)
離れや倉庫は既存の家の付属品(用途上不可分の関係)として建てることを許されています。だから床面積が合算=増築扱いになるのです。
ちなみに、離れが立派すぎると敷地を分ける必要があります。
立派ってのは「その中で生活が完結してしまうような作り」のことを言います。
具体的には、風呂トイレキッチンが完備されている建物は「これもう離れじゃないよね」って言われることが多いです。
カーポートの取り扱い
カーポートの判断が行政によって変わるのはまた別の理由です。
要は、カーポートが建築物(屋内的用途)なのか建築物以外(屋外的用途)なのかの判断がケースバイケースで変わってくるのです。


雨風凌げる立派なカーポートは建築物に近いですし、プラ製の庇を設けただけのカーポートは屋外に近いです。
その判断が行政によって変わるので、カーポートを作ることが増築に当たるかどうか(カーポートが床面積に入るかどうか)もそれで決まるということです。
建築物に該当する場合は床面積に入れなければなりませんし、増築扱いになるので原則として建築確認申請が必要になります。
ただ、原則として柱と屋根があるものは建築物なので、厳しい目で見ればカーポートは全て建築物です。
まとめ
いかがだったでしょうか。増築の定義とカーポートとかの取り扱いをご理解いただけたと思います。
随所で言いましたけど、皆さんの計画が増築に当たるかどうかの判断は最終的に行政庁の裁量に任されます。
なので、こういうブログをよく読んでいただいても”確答”まで辿り着くことはできません。最後は市役所に聞きましょう。(建築って結構そういう面があります)