遺伝子組み換えって危険なのかな。
っていうか、何なのかな。
昨日の記事では遺伝子組み換えの定義とその手法について説明しました。
前回の記事:遺伝子組み換えって何なのさ-上- 【4種類の手法を解説】
今日の記事では、遺伝子組み換えの方法について別の視点から疑問をぶつけてみます。
遺伝子の効果ってどうやって調べてるの?という疑問です。お付き合いください。
Contents
DNAの作用が分からないと話にならない
細胞の中にDNAを突っ込めば遺伝子組み換えが成立することは説明しました。
ところで、どのDNAを挿入するかってのはどうやって決めるのでしょうか。
あるDNAの塩基配列が分かっているとして、そのDNAがどういう作用を持つかってのはどうやって分かるのでしょうか。
DNAを挿入する技術がいくら発達しても、どのDNAを突っ込むべきかが分かっていないと活用することができません。
痩せさせる作用か、身長を伸ばす作用か、毒を持たせる作用か、そういう情報が分かっていないといけないのです。
効果の分からないDNAを手当たり次第に挿入するならいいんですけど、そんな乱暴な話はありませんよね。
ですから、あるDNAがどういう作用を持つかを調べるっていうのは、遺伝子工学の中でも最も基礎的で重要な研究の1つなのです。
DNAの作用の調べ方⇒マウスで対照実験
DNAの作用はマウスを使った実験で解明されています。
塩基配列を眺めていてもその作用は分かりませんから、とにかく実験するのです。

具体的な方法はこうです。
あるマウスから特定のDNAを滅失させ、そのマウスを普通のマウスと比べることで、滅失させたDNAがどういう効果を持っていたかを推定する。
例えば、あるマウスから○×△というDNAを滅失させ、そのマウスを普通に育ててみたところ、そのマウスが太ったとしましょう。
この場合、○×△というDNAは痩せさせる作用を持っていた可能性がありますよね。
満腹感を出す作用か、ご飯を食べづらくする作用か、消費カロリーを上げる作用か、そういう詳しいところまではまだ分かりませんけど、
○×△がマウスを痩せさせていたんだなってことは推定できるわけです。
1回の実験では固体による誤差の可能性もありますから、同じ実験を何匹か繰り返します。
それでも同じ結果になる場合、「○×△=痩せるDNA」だと強く推定できるわけです。
こうして解明できた○×△を、例えば今度はモルモットに導入してみます。モルモットはDNAを滅失させるんじゃなくて、マウスの○×△を導入するわけです。ここからが遺伝子組み換えです。
それでモルモットが痩せたら、じゃあ今度は猿に導入してみよう…と進んでいくわけです。
○×△が作用が確定したら、じゃあ太らない猫を作ってみようとか、ニンジンを食べないウサギを作ってみようとか、そういう応用が始まるわけですね。
ノーベル賞にも出てくるノックアウトマウス
こうした実験のために作られる遺伝子欠損マウスはノックアウトマウスと呼ばれています。
遺伝子がノックアウト(滅失)されているからノックアウトマウスです。
なんでマウスが実験に使われるかというと、狙った遺伝子を欠損させる技術がマウスに使えるレベルまでしかないからです。
もう少し科学が発展したらノックアウトモルモットなんてのも出るかもしれません。
なんかちょっとショッキングな話ですけど、こういう動物実験の元に我々の生活は支えられているのですね。
なお、ノックアウトマウスの作成方法を確立した人はノーベル医学生理学賞を受賞しています。2007年です。
ノックアウトマウスの登場が遺伝子工学の発展に大きく寄与したことが分かりますね。
2007年のノーベル医学生理学賞:理研のホームページ
遺伝子組み換えとゲノム編集の違い
ゲノム編集って知っていますか?最近話題ですね。
もうすぐゲノム編集食品が解禁されるんですけど、ゲノム食品だっていう表示をする義務が無いらしくて、それが議論を呼んでいます。
ところで、ゲノム編集って何なのでしょうか。遺伝子組み換えと似た響きですよね。
混同しがちな2つですけど、遺伝子組み換えとゲノム編集は決定的に違う点があります。
遺伝子組み換え | 持っていない遺伝子を導入する |
---|---|
ゲノム編集 | 持っている遺伝子を編集する |
新しい遺伝子を増やす話なのか、元から持っている遺伝子だけの話なのか、この点で両者は決定的に違うわけです。
導入と編集の違い

例えば、ライオンのDNAの中に「攻撃性」を司っている部分があって、そのDNAがノックアウトマウスの実験で特定できたとしましょう。
このとき、ライオンを大人しくさせるために取れる手段は2つあります。
- パンダのDNAのうち「温厚さ」に関する部分をライオンに導入する
- ライオンのDNAのうち「攻撃性」に関する部分を編集(無効化)する
このとき、①は遺伝子組み換えです。ライオンとパンダのDNAは全くの別物です。ライオンに全く新しいDNAを突っ込んでいるので、これは遺伝子組み換えです。
一方、②はゲノム編集です。ライオンに元からあるDNAを編集しているだけであって、違う遺伝子を導入してはいないからです。
ゲノム編集食品は安全?
このように、ゲノム編集はその生物が元から持っている遺伝子を編集するだけであって、全くの異物を挿入したりするわけではありません。
そのため、劇的な変化は起こりにくいです。
遺伝子組み換えと比べると結果が予想しやすくて安全だとされています。
たしかに、やっていることは遺伝子組み換えよりずいぶんマイルドですから、
少なくとも遺伝子組み換えよりはずっと安全だってのは、理屈としてはよく分かりますね。
この安全理論に立脚して、普通の食品と区別できないように流通させても問題ないだろうってのが厚生労働省の考え方です。
安全だって理屈は分かるんですけど、食品というデリケートな分野で反発も予想される中、よくもまあ「表示義務なし」に踏み切れたなあ…ってのが筆者の感想です。
遺伝子組み換えも即危険だってわけじゃなくて、結果が予想しにくいから保証できないってだけなんですけどね。まあ危険は危険なのか。んー。
小まとめ
いかがだったでしょうか。
遺伝子工学っていうと科学の最先端というか、近未来というか、なんだかすごいテクノロジーの集合みたいに思えますけど、
その根っこを支えているのは小さく地道な動物実験なのです。
動物実験でDNAの働きを解明して、それをもとに遺伝子組み換えが行われているのですね。
また、最近話題のゲノム編集は遺伝子組み換えと似て非なるものでした。
遺伝子組み換えよりは安全そうですけど、食品への応用となるとどうなのかな。今後も一悶着ありそうですね。
さて、遺伝子組み換えに関する記事は次で最後です。
次の記事では遺伝子組み換え食品の流通の実態をまとめます。
引き続きよろしくお願いします。