ニュースを見ていると○○界のノーベル賞という表現が使われることがあります。
○○界で最も栄誉ある賞という意味です。
これって結構種類がありますよね。筆者がザッと思い浮かぶだけでもフィールズ賞・プリツカー賞・チューリング賞など沢山あります。
ご存知かもしれませんけど、実はこういう賞はノーベル賞と全然関係ありません。
むしろノーベル賞としては勝手に名前を使われて迷惑しているとすら聞いたことがあります。
まあ実際どうなのか知りませんけど、「○○界のノーベル賞」なるものはとにかく他にも沢山あるようなのです。一体いくつあるのでしょうか。
例えば「料理界のノーベル賞」はあるのでしょうか。あるとしたらどんなものでしょう。
「スポーツ界のノーベル賞」は?「掃除界のノーベル賞」なんかもあるのでしょうか。
気になったら調べなくては気持ち悪い!ということで、筆者なりに調べて記事にまとめることにしました。読者の皆さんは何個知っているでしょうか。
○○界のノーベル賞は世に溢れかえっているので、その全部を一気にまとめることは到底できそうにありません。とりあえず今調べられた範囲をまとめ、新しいものについては逐次更新していく形をとりたいと思います。
Contents
そもそもノーベル賞とは
本題に入る前に本家のノーベル賞について知識を整理しておきましょう。(実は筆者はよく知りませんでした)
ノーベル賞はアルフレッド・ノーベルの遺言によって始まった賞です。
1895年に設立されて、その歴史から極めて権威の高い賞とされています。
アルフレッド・ノーベルはスウェーデンの発明家です。爆薬や兵器の発明によって富を築き、一部からは「死の商人」とまで呼ばれる人物でした。
そんな彼が何故、ノーベル賞を創設する(遺産のほとんどを実質的に寄付する)に至ったのかは所説あるところです。
ノーベルの遺言で賞の大枠が指示された
ノーベルはその遺言の中で、総資産のほとんどを基金の設立に充てること、その利子を賞として配分することを具体的に指示しました。
ちょっと引用してみましょう。
(前略)
私の遺言執行者によって安全な有価証券に投資された資本でもって基金を設立し、その利子は、毎年、その前年に人類のために最大の貢献をした人たちに、賞の形で分配されるものとする。この利子は、五等分され、以下のように配分される。
一部は、物理学の分野で最も重要な発見または発明をした人物に、一部は、最も重要な化学上の発見または改良をなした人物に、一部は、生理学または医学の領域で最も重要な発見した人物に、一部は、文学の分野で理想主義的傾向の最も優れた作品を創作した人物に、そして一部は、国家間の友好、軍隊の廃止または削減、及び平和会議の開催や推進のために最大もしくは最善の仕事をした人物に
(後略)
矢野暢著「ノーベル賞」より引用
遺言の中で、ノーベル賞=人類のために最大の貢献をした人たちに与えられる賞だとハッキリ示されています。
賞金には基金の利子が充てられるとあり、近年は概ね1億円超の賞金額となっています。名誉に見合う素晴らしい金額ですね。
ノーベル賞の分野とは
さらに、ノーベルは遺言上で賞の分野まで指定しています。(青文字で示した部分がそれです。)
その一覧を以下に示します。
- ノーベル物理学賞
- ノーベル化学賞
- ノーベル生理学・医学賞
- ノーベル文学賞
- ノーベル平和賞
- (ノーベル)経済学賞
「意外と少ない!」と驚きの方もいるでしょう。筆者ももっと沢山あると思っていました。だって、学問の分野ってメチャクチャ多いですからね。
ノーベル経済学賞はノーベル賞ではない?
上に挙げた6分野のうち、経済学賞はノーベルの遺言に無いことが気になりますね。
実は、ノーベル賞の創設当初(1895年)に経済学賞は存在しませんでした。
経済学賞は、スウェーデン銀行の設立300年を記念して1968年に新設されたものなのです。
経済学賞の当初の名前は「アルフレッド・ノーベルを記念する経済学に対するスウェーデン国立銀行賞」でした。どう考えてもノーベル賞とは別物ですね。
それから紆余曲折あってノーベル賞の1部門として扱われるようになりましたけど、肝心の遺言に存在しないことから、経済学賞は厳密にはノーベル賞でないとする意見もあるようです。
経済学賞を除き、ノーベル賞は部門の新設を一切拒否しています。賞の厳格さを保つための手段とも思えますね。
歴代受賞者は1000人未満!
筆者はまずノーベル賞がたった6分野(5分野)しかないことに驚いたのですが、もっと驚いたのが受賞者の総数です。
120年超の歴史で受賞者は900人ぐらいです。
少なッ!!!
ちなみに、ノーベル賞は複数人での共同受賞”有り”です。
それでいて1000人未満というのですから、なんともレアというか、改めて凄まじい賞だと思えますね。
選考過程は一切不明
ノーベル賞の受賞要件や選考過程は全くの秘密です。
完全極秘ってのがまたこの賞の重厚さを醸し出していますね。
なお、唯一明かされている条件は受賞決定発表の時点で本人が生存していることです。素晴らしい業績を残したけど早期に亡くなったためにノーベル賞を逃した…っていうのはよく聞く悲劇です。ちょっと厳しいよなあ…
○○界のノーベル賞:暫定まとめ
本記事の本題は「〇〇界のノーベル賞」でした。素晴らしく長い前置きのせいで筆者も忘れかけていました。暫定的にまとめていきましょう。
繰り返しますけど、網羅的なまとめにはなっていません。いずれなったらいいな
フィールズ賞(数学界のノーベル賞)
「ノーベル賞に数学賞が無いのは何故!?」
これは人類に長年突き刺さってきた疑問です。
ノーベル氏が数学が嫌いだったとか数学者に妻をとられたとかそういう憶測が飛んでいますけど、正確な理由は今後も謎のままでしょう。
フィールズ賞は数学界のノーベル賞として極めて有名です。
1936年に開始され、ノーベル賞に劣らぬ歴史を持ち、ノーベル数学賞が無いなかで数学界を牽引してきた最高の賞です。
「〇〇界のノーベル賞」の元祖だと言っていいでしょう。
ノーベル賞とは性格が大違い
ところがその態様はノーベル賞とは随分異なります。
ノーベル賞 | フィールズ賞 |
年齢制限なし | 40歳以下の若手に限る |
毎年開催 | 4年に1度の開催 |
1億円近い賞金 | 賞金は200万円程度 |
とりわけ特徴的なのは年齢制限の部分で、フィールズ賞の受賞難度を際立たせる一因となっています。
数学者の脳は”若いうちが旬”
この年齢制限の背景には数学者は若いうちが旬だという観念があります。
数学において最も大事なのは閃きであり、素晴らしい閃きは若い脳にのみもたらされるという考え方です。
この観念は概ね的を射ていて、高名な数学者のほとんどは若いうちに大きな仕事をしています。(晩年は後進の指導に専念するのです。)
逆に言えば、若いうちに大きな仕事をできなかった数学者は大成しないのが一般的です。厳しい世界ですね。
もちろん例外もいます。
フェルマーの最終定理を証明したアンドリュー・ワイルズは証明当時既に40歳を超えていました。フィールズ賞の受賞要件から外れていましたが、あまりにも大きい功績だったため、彼はフィールズ賞の特別賞を受賞しています。
よりノーベル賞に近い「アーベル賞」も存在する
ただ、それでも年齢制限は厳しすぎるという向きがあったのでしょうか。
2002年から同じ数学でアーベル賞なるものが設立されました。
これは、年齢制限なし・毎年開催・1億円の賞金、とノーベル賞に近い性格のものです。
プリツカー賞(建築界のノーベル賞)
プリツカー賞は建築界のノーベル賞と言われています。
ハイアットホテルのオーナー(プリツカー氏)が創設運営者です。
歴史は浅い
プリツカー賞の創設は1979年です。浅い歴史です。
建築の世界的な賞は他にも沢山あって、RIBAゴールドメダルやAIAゴールドメダルなどは100年以上の歴史を持っています。
ところがそれでも、建築界のノーベル賞はプリツカー賞だと言われます。プリツカー賞が最高権威だと言われます。次に示す特徴がその理由です。
最大の特徴は選考方法
プリツカー賞の最大の特徴は選考方法です。
プリツカー賞は候補者の作品群を選考委員が実際に見て回るのです。
つまり世界中の建築物を現地で見て採点するわけで、そのスケールは非常に大きいです。
他のほとんどの賞は写真審査なんですけど、写真だとどうしても建築家本人の権威とかでバイアスがかかってしまいます。実物の評価とは違ってきてしまいます。(と筆者は思っています)
写真ではなく、実物。
建築そのものをリアルに評価するという点で、プリツカー賞は他の追随を許さないのです。
書きぶりで分かると思いますけど、筆者はこの賞の理念が大好きです。
日本人も大健闘している
ちなみにこの賞、日本人が健闘していることでも有名です。
歴代受賞者43人中8人が日本人です。(2019年時点)
チューリング賞(計算機科学界のノーベル賞)
チューリング賞は計算機科学会のノーベル賞です。
「計算機科学」というと一般に聞き慣れない分野ですけど、要するにコンピューターのことです。コンピューター科学の国際学会(ACM)が創設運営しています。1966年に始りました。
コンピューターの全分野が対象
情報及び計算の理論とそのコンピューターへの実装、つまりコンピューターに関することなら基礎から応用まで全てが表彰の対象です。
賞金も100万ドルと大変高額で、歴史的にも規模的にもまさに世界最高の賞です。
そもそもコンピューターの歴史自体が浅いのですから、その黎明期から存在するこの賞は大変長い歴史を持つといえるのです。
AI研究者から暗号学者まで
近年の受賞者にはAIの研究者が多いですけど、
インターネットの核となるRSA暗号を開発した者や、その基礎となる公開鍵暗号を発案した者など、暗号化技術に関する受賞も多いです。
賞の名になっているアラン・チューリングは現代計算機科学の父ですけど、同時に極めて優秀な数学者・暗号学者でもありました。暗号の話って面白いのでいつか記事にしたいと思います。
“受賞者専用”駐車場!
ちなみに、米マイクロソフト社の研究所にはチューリング賞受賞者専用の駐車場があるのだとか。コンピューター業界ではものすごい特権階級になるわけですね。
トーマス・ハックスリー記念賞(人類学界のノーベル賞)
人類学って何をする学問何でしょう。ちょっと勉強中です。いつか追記します。
エリザベス女王工学賞(工学界のノーベル賞)
工学界のノーベル賞を目指して2013年に始まったのがエリザベス女王工学賞です。
賞金100万ポンドという高額賞金を引っ提げて、これから長い歴史を作るべく全力で盛り上げられている賞です。
理系分野というとノーベル賞には物理・化学の2部門が存在しますけど、どちらも主に純粋理論が表彰の対象です。
よって、工学的(応用的)な発展についてはこの賞が最大の名誉となる(予定)わけですね。