住宅

方角ごとの日当たりと価格を解説~南向きのメリットを再確認~

家の方角は大変重要です。

窓の方角は室内の日当たりに大きな影響を与えます。日当たりの良し悪しは室内の環境に影響を与えます。そして、室内の環境は生活の質に影響を与えます。つまり、窓の方角は生活の質に影響を与えるのです。

ところで、この影響とはどのくらい大きいものなのでしょうか。

南向きは最高だよ!という意見は数多いですけど、南向きと東向きのリビングにどれほどの差が生まれるのかみなさんご存知でしょうか。

本記事では、建築環境工学的な視点から、方角と日当たりと価格の関係を整理してみます。

結論から言っちゃいますけど、この記事は南向き最強!という結論に終始しています。建築士として申し上げれば、リビングを南に向けない理由はありません。これから家を考える方に「南向きって本当に最強なんだな」と感じていただきたくて記事を書いています。よろしくお願いします。

方角ごとの価格差をチェック

これはもう常識みたいなことですけど、南向きの家は価格が高くなる傾向があります。

やはりみんな南向きはいいものだというのはナントナク理解していて、それが人気と価格に反映されているのでしょう。

ただ、南向きがどういう理由でどれくらい良いのかを理解している人は少ないので、その価格が適正な価格かというのは検証してみないと分かりません。

つまり、南向きは高価だけど実はメリットが薄いとかいうのであれば、東向きや西向きの安い家を買った方がコスパがよいという結論になります。そこんとこどうなのでしょう。

本記事ではそこを議論したいので、まずは南向きが他の方角よりどれくらい高いのかを確認します。

方角ごとの比較にはタワーマンションが便利

方角ごとの価値を確認するにはタワーマンションの価格表を参照するのが有効です。

タワーマンションが有効な理由をお示しします。

  • 東西南北それぞれに向いた部屋が揃っている
  • 高層階なら周囲の建物の影響を受けにくい
  • 同じような間取りが多い

要するに、方角だけで価格が決まる部分が大きいので、方角の価値だけを純粋に比較できるのです。本記事にとって大変都合がよいのです。

タワーマンションの価格表を整理してみる

以下にお示しするのは、あるタワーマンションの30F部分の価格です。

タワーマンション価格表

このうち、角部屋(北西・南東・南西)はプレミアが付くので除外し、方角ごとに色分けして再整理したのがこの表です。

タワーマンション価格表(整理後)

ここから坪単価を整理すると以下のとおりになります。

方角 坪単価 北との差
245万円 +0万円
250~265万円 +5~20万円
270~280万円 +25~35万円
西 255~270万円 +10~25万円

このマンションでは東と西に坪単価の差が出ていますけど、このマンションでは西側に海が見えて眺望が良く、それが価格差となっているみたいです。普通は東と西は大体同じぐらいの価格になります。

南向きの資産価値は200~600万円

このとおり、やっぱり南向きが1番高いという結果になりました。

東西向きと比べ、坪単価で10~30万円高いです。

部屋の規模にもよりますけど、これは大体200~600万円の差になります。

これは筆者の経験上も大体合っていて、東西向きと南向きとでは200万円~の差が付くのがまあ一般的です。土地や建売住宅を買う場合も一緒です。

というわけで、東西向きに対する南向きの価値は200~600万円が相場のようです。

ちなみに、同じ理屈で言うと北向きの価値は-100~-500万円です。

南向きの価値は+200~+600万円

北向きの価値は-100~-500万円

 

さて、そんな高級な南向きですが、その金額に見合うメリットはあるのでしょうか。

いよいよ実際の日当たりについてお話しします。

 

方角ごとの日当たり~季節別~

以下のグラフは、方角ごとの直射日光の量を1年分示したのものです。

直射日光量

方角と日射の関係を示した非常に有名なグラフでして、環境工学の書籍にはだいたい登場します。建築士の試験でも頻出します。

分かりやすく色分けするために超手書きになってますけど許してください。

ちなみに、元のグラフはこんな感じです。私のグラフでは南東とか北東とかの線は削除しています。

直射日光量のグラフ

このグラフを使って方角ごとの日当たりを整理していきたいと思います。よろしくお願いします。

直射日光の量~グラフの読み方~

先にグラフの読み方のポイントを示しておきます。大事なのは以下の3点です。

  • 縦軸が日射量。上に行くほど直射日光が強い。
  • 横軸が月日。真ん中が夏至で端っこが冬至
  • 方角ごとに線が引いてある。

例えば、春分の日東向きの窓に入ってくる日射量はココ↓で示されます。

東向き窓の春分の日の日射量

 

北向きは”超寒く超暗い”

まずは北向きの窓に入ってくる日射の量を確認しましょう。

これはもうグラフを見れば分かります。日射量は超少ないです。

北向きの日射量

当たり前ですけど、日本の緯度だと太陽は北側には昇らないので、北向きへの日射は極めて少ないです。

唯一、夏の間だけは多少の日射があります。朝は北東から太陽が昇り、夕方は北西まで太陽が沈むからです。それにしたって雀の涙ほどの量なので、建築物の北面にはほとんど日射が当たらないと結論付けてしまって構いません。

快適な住環境とは言い難い

というわけで、北向きの部屋の住環境は大変に悪いです。

冬は日射が全く当たらない(冬どころか秋も春も当たらない)ので寒いですし、夏ですら日中は日射が入らないので1年中暗いです。

従って、住宅を計画するときはトイレやキッチンなど日光を必要としない部屋を北に向けるのが鉄則となります。リビングを北に向けるのは何が何でも避けるべきだと言い切ってよいです。まあ言われるまでもないと思いますけど。

北向き住宅のコスパは悪い

北向きの価値は-100~-500万円でした。

つまり、北向きの住宅を買うことで100~500万円を節約できるということですけど、その分は住環境に思い切り跳ね返ってくると思ってください。

北向きの住まいは「そもそも住環境にあまりコダワリが無い」人にしかオススメできません。夜勤がメインだから日光なんて関係ねえよ!みたいな人には安くてちょうどいいと思いますけどね。

筆者個人の感覚としては、1年中暗いリビングに住む対価として500万円は安すぎると思います。

ちょっと補足しますと、北側道路に面した土地を全否定するわけではありません。南側に日当たりのよいリビングを設計する余地があれば全く問題ないと思います。例えば2階リビングにしたりとかね。

 

東西向きは”夏暑く冬寒い”

次に東西向きの窓に入ってくる日射量を見てみましょう。

東西向きの日射量

北向きとは違い、1年を通して必ず直射日光が入ります。

グラフが示すとおり、夏はたくさん日光が入り、冬は日光が少なめになります。

つまり、夏は暑く冬は寒い。これが東西向きの部屋の特徴です。

まあこれは当たり前の話なんですけどね。

夏の方が日射が多いのは日が長いからです。夏至の日の出は4時ごろですけど、冬至の日の出は6時ごろです。この2時間の差が日射量の差になるのです。

入ってほしくないときに光が入ってくる

東西向きで直射日光が得られるのは東は朝、西は夕方だけです。

我々の生活で日射を得たいタイミングはだいたい昼ですけど、1番欲しい昼には直射日光を得られません。

朝や夕方、1日のメインの時刻から少し逸れた時刻にしか直射日光を得られない。それが東西向きの宿命だと言えます。冬の日中にポカポカした陽光を浴びることはできないのです。

ただまあ、1日に少しでも直射日光があるというのは精神衛生的に良いものなので、北向きよりは遥かに住環境が良いと言えます。南向きを買うお金が無いから東西向きにする、というのは許容できる妥協だと思います。

なお、東向きと西向きの2択なら「どちらかといえば東向きがいい」という意見が強いです。「朝に直射日光を浴びたい」とか「夕方の陽射しは強い」とかいうのが理由です。(理屈で言えば朝日と夕日の強さは同じなんですけどね。)

 

南向きは”夏涼しく冬暖かい”

最後に南向きの窓に入ってくる日射量を見てみましょう。まずグラフを見て驚いてください。

南向きの日射量

今までのグラフと形が全然違いますね。

よく見ると、秋~冬~春は直射日光が多いですけど、夏は超少ないです。

これはつまり、夏は直射日光が少ないので涼しい冬は直射日光が多いので暖かい、ということです。東西向きとは真逆の特徴です。めちゃくちゃ都合がいいです。

何故こんなに都合がいいのでしょうか。その理由を説明します。

夏に直射日光が少ない理由

太陽は時季によって高度が違います。

太陽高度

真夏の日射って真上から降り注いでくる感じがしますよね。これは実際そのとおりで、夏至の日の正午の太陽は地面に対して78°の高度に位置します。ほとんど真上です。

このように、真夏の太陽はあまりにも角度が急すぎるので、建物の窓から入る日射が少ないのです。

なお、秋~冬~春のあいだは太陽の角度が浅くなるので、窓からは十分な日射が入ります。

太陽高度と日射の関係

ちなみに、太陽が1番南に行く時刻(つまり正午)における太陽の高度を南中高度といいます。夏至の日は78°で冬至の日は32°ぐらいです。(東京の場合)

日射コントロールによる節約効果も

さらに言うと、南向きは日射のコントロールも容易です。

例えば下の図のように、庇を使って夏の日射だけをカットすることが簡単にできます。

庇による日射コントロール

夏は日射をカットし、冬は日射を全部取り込むことで、冷房や暖房の負荷が減ります。結果的に省エネにも節約にもなるのです。

このように建築的な手法によって自然エネルギーをうまく取り入れることをパッシブな設計といいます。自然に対して受け身という意味です。省エネ化が叫ばれる昨今、建築的手法によるパッシブな省エネは非常に注目されており、こうしたノウハウを持つ設計者こそが「優れた設計者」であると言えます。

南向き住宅のコスパは良い

南向きの価値は+200~+600万円でした。

読みながら感じていただけたと思いますけど、南向き住宅のメリットはかなり大きいです。

特に夏の日射が少ないというのは極めて都合の良い特徴です。南向きの部屋は夏涼しく冬暖かいのです。部屋を南に向けるだけで、住環境の快適さはもちろん、空調負荷の低減によるパッシブな省エネすらも実現できるのです。

1年中明るく暖かい(夏は涼しい)住まいを実現したいなら部屋を南に向けるしかありません。最低限リビングだけでも南向きを確保したいものです。

筆者に言わせれば、南向きリビングのために払う200~600万円なんてものは安すぎる必要経費です。それだけのポテンシャルを南向き住戸は秘めています。コスパ良しです。南向き。

まとめ:南向きは想像以上に有利

いかがだったでしょうか。筆者による熱い南信仰を語りましたけど、建築環境工学をやった人間からすると南向きは標準仕様です。

東西南北それぞれの坪単価も比較しました。南が1番高く、北が1番安かったです。

ただ、筆者はそれでも南>東西>北の順でコスパが良いと思っています。

価格 :南向き東西向き北向き

コスパ:南向き東西向き北向き

とにかく!快適な住環境を追求するうえで南向きを外すことは有り得ないと思います。

これから住宅をお考えの皆様は、まずは南向きを標準として捉え、そこから検討を始めることを強く強くオススメします。(もう1回言いますけど、金銭的な事情で東西向きに妥協するのは有りだと思っています)

ところで、グラフの紫の部分についてはこの記事では説明しませんでした。水平面の日射量についてはこちらの記事で詳しく説明しています。参考にどうぞ。

天窓のメリットとデメリット~南向き窓よりも明るい!?~

水平面の日射量