みなさんは明るい家と暗い家のどちらに住みたいと思いますか?
100人中99人が明るい家と答えると思います。
住環境において採光は非常に重要なのです。
ところが、明るい家の実現は簡単なことではありません。
理想を言えば全部の部屋を南に向けて大きく開口を設けたいのですが、そのためには良い土地が必要だったり、良い設計が必要だったり、まあとにかくお金が必要です。
そうした事情から南向きの家を諦め、東西に向けたやや暗い家で生活している方はとても多いのです。
そこで、そんなやや暗い家を一発で解決する方法を紹介します。
天窓です。
本記事では、建築環境工学に裏打ちされた天窓のメリットをお伝えしつつ、デメリットの方も整理したいと思います。よろしくお願いします。
南向きの優位性についてはコチラの記事で詳しく紹介しています。合わせてお読みください。
方角ごとの日当たりと価格を解説~南向きのメリットを再確認~
Contents
そもそも天窓とは
天窓は屋根面に取り付けた窓のことです。トップライトとも言います。

屋根付近にあっても真横に向けた窓のことは天窓とは言いません。空に向けた窓のことを天窓と言います。
逆に言えば定義はそれだけですので、窓ガラスの材質とかルーバーの有無とかは天窓の定義には入りません。
天井が張ってある部屋には付けられない
天窓は天井が張ってある部屋には付けられないです。
これは説明するよりも図を見てもらった方が早いです。

要するに勾配天井(屋根が見える天井)じゃないと天窓は付けられないんですね。
天井を張る設計で天窓を併用するのは難しいと思ってください。
一応、工事にお金をかけていいのなら抜け道はあって、例えば天窓の下だけ天井を折り上げるとかそういう技で実現することはできます。
ただ、新築時にそれをやるなら素直に勾配天井にした方がいいですし、リフォームでそれをやるのはコスパ的にあまり現実的でないと思います。
建築工事の常ですけど、お金をかければ何でもできるのだ!という話でした。
開閉できないものと開閉できるものがある
天窓には開閉できないものと開閉できるものがあります。どちらも天窓であり、設計時に選択することができます。
開閉できないものは取り付けて終わりです。いわゆる”ハメゴロシ”というやつです。
開閉できるものは、大体はワイヤーロープを使って遠隔で操作できるようになっています。
稀にリモコンで操作するものもありますけど、あまり機械に頼りすぎると壊れた時の更新が面倒⇒閉めたままになるので、筆者はなるべくシンプルな機構をオススメしています。
天窓のメリット
さて、まずは天窓のメリット面から整理しましょう。
天窓を設けるメリットは以下の3点です。
- 明るい
- 換気できる
- 柔軟な設計ができる
んーこれ当たり前のことじゃない⁇と思われるかもしれませんけど、このメリットがとにかく超強力なのです。皆さんの想像を超える威力があると思います。順番に説明します。
極めて明るい
はい。小見出しに”極めて”と付けました。これは本当です。
天窓は本当に本当に極めて明るいです。皆さんの想像以上に明るいです。

3~10月は東西南北すべての面より明るい
ちょっとデータ的な部分をお話しします。まず、方角ごとの日当たりの記事で使ったグラフを見てみましょう。

これは、建物の東西南北それぞれの面に当たる直射日光の量を表したグラフです。
紫の線が建物の水平面(屋根)に当たる直射日光の量を示しています。
赤い線は建物の南面に当たる直射日光の量を示します。
青い線は建物の北面に当たる直射日光の量を示します。
見てもらえば分かりますけど、グラフの真ん中あたりでは紫の線が突出して高いです。
要するに、春分の前から秋分の後までは、屋根に到達する日射量が東西南北すべての面より多いのです。
日射量
春~秋:天窓>南向き>東西向き
冬 :南向き>天窓>東西向き
天窓は普通の窓の「3倍」明るい
さらにちょっと専門的な話をします。
建物を設計するときは採光量を計算しないといけません。建物の居室には一定以上の採光が必要だと、建築基準法でそう定められています。採光量は窓の面積から計算します。
このとき、天窓は面積を3倍して扱ってよいという特例があります。
建築基準法施行令
第二十条
2 前項の採光補正係数は、次の各号に掲げる地域又は区域の区分に応じ、それぞれ当該各号に定めるところにより計算した数値(天窓にあつては当該数値に三・〇を乗じて得た数値、その外側に幅九十センチメートル以上の縁側(ぬれ縁を除く。)~以下略~
つまり、建築基準法では天窓は他の窓より3倍明るいとみなされているのです。天窓の明るさがよく分かるエピソードですね。
換気力がある
天窓のメリットとして換気しやすい点も見逃せません。
これは皆さんご存知だと思いますけど、暖かい空気は上に向かうものです。暖かい空気は軽いからです。
これを利用して、高いところに換気口を設けて効率的に換気する手法があります。重力式換気と呼びます。

天窓はこの換気方法と非常に相性が良く、極めて高い換気力を得ることができます。自然エネルギーによる換気なのでとてもエコですし、場合によっては機械式換気よりも効果的だったりします。
とにかく天窓を開放しておくだけで重力式換気が働いてくれるので、室内空気を常に新鮮に保てますし、空調負荷も低減できて良いことずくめです。
当たり前ですけど、このメリットを享受できるのは「開閉できる天窓」だけです。開閉できる天窓を選ぶメリットはここにあります。
柔軟な設計ができる
これはどちらかというと設計者にとってのメリットなんですけど、天窓というのはあまり場所を選びませんから、都合の良い場所を選んで付けられるという良さがあります。
普通の窓は外壁面にしか付けられませんけど(当たり前か)、天窓は屋根の下ならどこにでも付けられます。その気になれば家のど真ん中にも光を落とし込めるわけで、設計者としてはものすごく便利な存在なのです。
「なんかこの部屋暗そうだな。天窓付けちゃおう」みたいな調整がサクッとできるので、採光計画上はジョーカーみたいな存在です。後述するデメリットもあるので乱用するのはアカンですけどね。よく考えて使う分には本当に便利な設備です。
南側に邪魔な建物がある土地は多いですけど、家の上に邪魔な建物が建っている土地はほとんどありません。天窓はどんな土地にでも適合する必殺技なのです。
天窓のデメリット
天窓のメリットについて熱く語りましたが、天窓にはデメリットも存在します。
- 雨漏りの危険
- 清掃の不便
- 夏に暑い
これも順番に説明します。
雨漏りの心配

天窓と雨漏りは切っても切り離せない関係です。
ネット上をサッと検索するだけでも天窓が雨漏りした!というトラブルを大量に発見できます。
技術者として申し上げるなら、天窓はなんでもない屋根に穴を開けて細工することなのですから、雨漏りのリスクが上がるのは当たり前です。
ただ、これに関しては全ての天窓が雨漏りするわけではないことを強調しておきます。雨漏りしていない天窓も無数にあるのです。
その差が何で生まれるかというと、これはもう間違いなく施工です。大工の腕です。
新築にせよリフォームにせよ、天窓を施工する場合は施工実績が豊富な業者にお願いすることを心がけましょう。ハウスメーカーの営業に言うだけだと適当にスルーされる可能性もあるので、できるだけ施工実績を何例か確認させてもらってください。
雨漏りが起きてしまうと本当にショック(天窓のメリットが吹き飛ぶぐらいショック)なので、慎重な業者選びを心からオススメします。
「開閉できる天窓」の方が雨漏りのリスクは多少高いです。「開閉できない天窓」を選ぶメリットはここにあります。「開閉できない天窓」を選んでも雨漏りするときは雨漏りするんですけどね。
清掃しづらい
清掃が難しいのもデメリットです。
「1回も掃除できていない」という例も数多く存在します。
家中を毎日掃除しないと気が済まない!という人に関しては、天窓はストレスになると思うのでオススメできません。
ただ、天窓の汚れに関しては「外が明るいから気にならない」「高いところだからよく見えない」という意見が多いのも事実です。ご自分の価値観と実態とを鑑みて採否を検討しましょう。
夏に暑い
もう1回このグラフを貼ります。
見て分かってほしいんですけど、真夏の日射量が半端ないです。

これはメリットでもありデメリットでもあり…な部分でして、夏も冬も超明るいかわりに夏は暑いと考えてください。
ただ、天窓に開閉式のルーバーを設けたり、窓ガラスを高性能にしたりすることで多少はなんとかなります。
さらに言えば、本来なら屋根か天井で断熱を行いたいところを窓にしてしまうわけですから、家全体の断熱性能としてもマイナスに働きます。まあこれは天窓に限らず、すべての窓に言えることですけど。
まとめ:天窓を採用して明るい生活を
いかがだったでしょうか。
建築士としてお伝えしたい天窓のメリットデメリットを端的に整理しました。
天窓にはデメリットもありますけど、それを補って余りあるメリットがあります。
筆者に言わせれば明るさは正義です。
部屋を明るくするだけで住環境は大きく向上します。
東西向き・北向きの部屋にも日光を導けるという点で、天窓を検討する意義は本当に大きいと言えるでしょう。
皆さんの家がなるべく明るいものになることを願ってやみません。