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まとめ:高さの定義一覧表
先に結果を知りたい方もいると思うので、本記事の結論を以下にまとめておきます。
高層以外は定義がハッキリしていないので、本サイトなりの解釈で説明していることをご理解ください。
超高層 | 60m超 または 100m超 |
高層 | 31m超 60m以下 |
中層 | 12m超 31m以下 |
低層 | 12m以下 |
順に解説していきます。
“超高層”も”中層”も定義があやふや
こんにちは。筆者です。
建築基準法では、ビルの高さに応じた法規制があります。
低い建物と高い建物とが区別して扱われます。
建物が高くなるほど面倒な申請とかが増えるようになっています。
ただ、ビルの高さの区分けは建築基準法以外でも作られていて、実はそれらはリンクしていません。
建築基準法では超高層扱いになるビルが、他の定義では超高層にならない、みたいなことがあるのです。
超高層の定義はいまいち確立されていないんですね。(法律って往々にしてこういうことがありますよね)
飛行機から見える距離を計算する記事で「超高層ビルは60m」と言いましたけど、あれは見方によっては間違ってもいるわけです。この記事はその補足として書くモノです。ついでに、建築物の高さにまつわるエピソードもご紹介したいと思います。

超高層の定義
超高層の定義はイマイチ確立されていないと言いました。
ですが、建築基準法の中に一応の基準があります。
超高層ビルは60m以上
建築基準法
第二十条
一 高さが六十メートルを超える建築物 (中略)その構造方法は、荷重及び外力によつて建築物の各部分に連続的に生ずる力及び変形を把握することその他の政令で定める基準に従つた構造計算によつて安全性が確かめられたものとして国土交通大臣の認定を受けたものであること。
これは建物の構造計算について規定した条文です。
簡単に言うと、高さ60mを超える建築物は普通じゃないから特別扱いしますよという意味です。
大臣認定ってのは国土交通大臣による認定のことを指します。高さ60mを超える建築物は、その構造計算について国土交通大臣の認定を得ないといけないのです。
ここでいう構造計算というのは、時刻歴応答解析という超高度なもので、60m以下の建物と比べるともうホントものすごい労力を必要とします。
時刻歴応答解析というのは超高度なコンピューターシミュレーションだと思ってください。「建築物の各部分に連続的に生ずる力及び変形」だかを把握するためにコンピューターの中で建物を建てて地震に遭わせてみるのです。筆者は専門外なのでいまいち分かりません。一級建築士でも知らない人は知らないような世界だと思ってください。
なお、建築基準法ではこれ以上の高さの建築物を区分けしていません。建築基準法的には、60m超は無差別級なのです。
というわけで、建築基準法的な観点から言えば高さ60mが超高層の境界なのでした。
「高さ60m」は自治体や社団法人にも準用されている
この境界は建築基準法以外にも色々な場面で引用されています。
例えば新宿区の景観形成ガイドラインでも「超高層ビル=高さ60m超のビル」と定義されていますし、
マンション管理業協会のページでも「超高層マンション=高さ60m超のマンション」と定義されています。
たぶん、建築基準法の定義をそのまま準用しているとみて間違いないでしょう。
超高層の定義は100mの方が適切?
一方、建築基準法の境界は古すぎるため実態から離れているとする見方もあります。
高さ60mとは、階高3~4mで15~20階建てのビルに相当します。
今の時代、そんな建物は全然珍しくありません。
高さ60m超を超高層と定義してしまうと、日本には超高層ビルが無数に存在することになってしまいます。
“超”高層という響きからして、もっとこう特別感というか、うわーこのビルすごい!っていう感じが欲しくなりますよね。
そんな思惑からか、超高層を100m超と定義する向きも見られます。100mというのは25~33階建てぐらいです。
例えば、goo辞書にはこういう記載があります。
【超高層建築】の意味
高層建築のうち格段に高い建造物。一般に高さ100メートル以上、25階ないし30階以上のものをいう。(以下略)
超高層の境界は法令や辞書によって異なるんだなーと理解しておきましょう。
超高層ビルは日本に何棟あるの?
60m超のビルは無数にあると言いました。
では、100m超のビルは日本に何棟あるのでしょうか。
こちらの調査サイトによれば、
日本の都市の中で超高層ビルが1番多いのは東京(500棟以上)、
次いで大阪(160棟以上)、その次が横浜(40棟以上)でした。
その後は神戸(30棟以上)や名古屋(30棟以上)が名を連ねています。
これらを合計すると、日本の超高層ビルの総数はどうやら900~1000棟ぐらいなんじゃないかと思います。
この日本にそれだけの数しかないのですから、100m超のビルはまだまだ珍しい存在だと言えそうです。超高層を名乗るに相応しいのは100mからなのかもしれませんね。
世界1位は香港で、その数なんと1400棟以上。文字通り桁違いの棟数です。恐るべし香港。
(2021/2 追記 香港の棟数が1900以上になっていて驚きました。この記事を書いたのが2019年末ですから、約1年ぐらいで500棟以上建っていることになります。え?凄すぎない?)

高層の定義
さて、高層の定義にはどういうものがあるのでしょうか。
同じく建築基準法を見てみると、31m超が高層の定義に相応しいことが分かります。高さ31mを境界に法の適用がこんなに違うのです。
高さ31m未満 | 高さ31m以上 | |
許容応力度計算の採用 | 可 | 不可 |
非常用エレベーターの設置 | 不要 | 要 |
非常用進入口の設置 | 要 | 不要 |
31mを境界に構造計算のレベルが変わる
許容応力度計算っていうのは構造計算の中で1番簡単な計算方法です。
高さが31m以下なら許容応力度計算(簡単な計算)で済みます。
高さが31mを超えると難しい構造計算を行う必要があります。
31mを境界に構造計算のレベルが全然違うんだなーと理解してください。
はしご車の高さも31m
非常用進入口っていうのは火災のときに消防隊が進入するための出入口です。
はしご車の高さが31mなので、31mを超える部分には進入口を設けなくてよいことになっています。
ちなみに、消防法も31m超の建物を高層建築物と定義しています。こちらは建築基準法みたいな曖昧な定義ではありません。ハッキリと言い切っています。
消防法
第八条の二 高層建築物(高さ三十一メートルを超える建築物をいう。第八条の三第一項において同じ。)その他政令で定める防火対象物で、その管理について権原が(以下略)

31mはキリが良い数字??
ところで、31mってのはすごく中途半端な数字に見えますけど、尺貫法にすると31m≒100尺なんです。
つまり、高層建築物は100尺を超える建物なのです。そう考えると凄くキリがよい数字ですねー。
尺貫法ってのは、昔の日本で使われていた長さの体系です。30.3㎝≒1尺です。日本の建築物、特に木造住宅は今も尺貫法を基準に考える部分があります。例えば、畳の短辺は3尺です。(畳の種類にもよりますが)
昔の建物の限界高さは31mだった
31mという数字には結構特別な歴史があります。
昔は建築物の高さの上限が31mだったのです。
これはどんな土地にも一律で適用される絶対高さ制限だったので、31m超の建物は原則として建てられませんでした。まあ実際は日本橋三越本店(60m)みたいな例外がいくつかあったらしいですし、それらが法的にどういう扱いだったかはちょっと分かりませんけど。
とにかく、31m超の建物が堂々と建てられるようになったのは1970年の法改正からです。高層建築物の歴史は1970年に本格化したと言ってよいでしょう。
絶対高さ制限についてもう少し具体的にいうと、住居用の地域では20mが限界で、それ以外の地域(工業地域とか)では31mが限界なのでした。
国会議事堂は超特例

国会議事堂が完成したのは1936年です。当時はもちろん31m規制がありました。
ところが、国会議事堂の高さは65mです。
これはもう当時からしたらアホみたいな高さです。普通の建物の限界高さの2倍以上です。
なので、完成してから30年ぐらいの間、国会議事堂が日本で1番高い建物でした。
さすがに気合入ってたんだな~と感じるものがあります。
中層・低層の定義
最後に中層と低層の定義をお話しします。
これらは明確な定義が存在しないので、1つの考え方としてご紹介します。
低層は12m以下
建築基準法の用途地域に低層住居専用地域というものがあります。
この地域に建てられる建物の限界高さは10mまたは12mなので、10m(12m)を低層の定義としておけば概ね間違いないでしょう。
10mと12mのどちらを限界高さにするかは都市計画を定める人(市町村とか)が選ぶことになっています。
個人的には、3階以上の建物は低層ではないよな~と思っています。都市計画でも「低層は1・2階とする」という定義がよくあります。
中層は12m以上31m以下
中層に関しては消去法で求めましょう。
- 低層が12mまで
- 高層が31m超
以上より、中層は12mから31mの間だと言えます。
階数にすると3~10階建てぐらいでしょうか。
終わりに
いかがだったでしょうか。
“超高層”や”中層”はよく聞く言葉ですけど、意外と根拠に乏しいことが分かったと思います。(高層のみ消防法でハッキリ定義されています)
身近にあるビルが高層なのか超高層なのかとか、そういうことを考えてみると話のタネになるかもしれません。ご清聴ありがとうございました。