飲食店のキッチンを覗くと下の図のような状態になっていることが結構多いです。

これ、原則ダメです。この状態で保健所の査察が入ったら1発で指摘されます。
何がダメかっていうと、ホースを蛇口に付けっぱなしなのがダメです。
しかもそのホースがシンクの中まで届く長さだってのが超ダメです。
これは飲食店に限らずとにかくダメなので、ご自宅でこういうホースの運用してるよって人がいたらとりあえず今すぐやめましょう。
本記事では、この運用が何故ダメなのか、その理由とメカニズムをご紹介します。
特にラーメン屋に多い気がします。「おおぉ…」って気分になります。
Contents
逆流の危険性
まずダメな理由を言います。
一言で言うと、シンクに溜めた水が逆流する可能性があるからです。

逆流するとどうなるかというと、上水が汚染されることになります。
シンクに触れた不衛生な水が上水の系統に逆戻り⇒その後ふたたび蛇口から出てくることとなり、衛生管理上非常にマズい事態となります。
シンクに水を溜めなければいいんでしょ?とか思っている方は甘いです。シンクのフタを誤って閉めちゃったとか、排水管が詰まってシンクが水溜まりになっちゃったとか、ちょっとしたエラーでシンクに水は溜まりますし、逆流も発生します。
「間違いが重なっても問題ないように…」と普段から意識することが防災の基本です。ホースは今すぐ外しましょう。
“上水”ってのは我々が普段使っている飲用水のことです。上水の対義語は”下水”です。飲めない程度に処理された水のことは”中水”と呼びます。
共同住宅で逆流を起こすと悲惨
極めてマズいのは共同住宅や共同ビルで逆流を起こしてしまうケースです。
共同住宅は上水道が共用になっていますから、あなたのシンクで汚染された水が他人の蛇口から出てしまう可能性があります。
賠償問題に発展する可能性もありますので、逆流の可能性はとにかく断ちましょう。まずはホースを取り外してください。
あなたの家が戸建住宅なら周りの人に危害を加える可能性は低いですが、あなた自身が不衛生な思いをしてしまいますから、やはり対策をオススメします。
バキュームブレーカー付の器具なら無問題
逆流防止装置(バキュームブレーカー)が付いているなら私の戯言は無視して大丈夫です。
バキュームブレーカーは水栓(蛇口)に内蔵されているタイプもありますし、配管の途中に設けるタイプもあります。
ただ、意識して注文しないと普通は付いてこない機能なので、「うちの家には付いてるのかな?」とか思ってる人の家にはたぶん付いていません。そういう人はとりあえずホースを取り外してください。
こんなに怖い水質汚染事故
水質汚染の事故ってあまり馴染みがないと思います。日本の水道は本当にレベルが高いので、事故が滅多に無いのです。
だからこそ、実際に起きてしまった水道事故は非常にショッキングなニュースになります。実際、年に1度ぐらいは深刻な水道事故が起きています。
一例として、筆者が近年で最も衝撃を受けた事故をご紹介します。目を疑うような内容です。
「くさい」水で炊飯、飲んだ人も 水道から下水処理水:朝日新聞デジタル
簡単に言うと、複数の家の蛇口から公共下水(トイレの処理水)が出てきてしまったというものです。
下水処理場で水道業者が工事ミスしたのが原因で、下水が出た家の人たちは何も悪くない(それどころか工事に関わってすらいない)のに被害を受けてしまいました。筆舌に尽くしがたい苦痛だったと思います。
これは工事ミスが原因なので、今回紹介している逆流とはまた別種の事故ですけど、上水の汚染は少なからずショッキングな出来事だと分かってもらえるとありがたいです。
水質汚染事故の一覧は厚生労働省のページで確認することができます。
逆流が起こるメカニズム(逆サイホン作用)
逆流が何故起こるかを説明します。
超簡単に言うと、水道の配管内が負圧(真空に近い状態)になることが稀にあって、そのときにストローを吸うような感じでホースから水が吸い上げられてしまうのです。これを逆サイホン作用と言います。

なぜ負圧になるかというと原因は様々で、例えば下階の住人が急に大量の水を使ったとか、何らかの理由で給水バルブが閉められたとか、そういうときに負圧が生じます。給水設備の故障(急停止)が原因になる場合もあります。
負圧の発生自体は自分で防げないケースも多いので、いつ負圧が起きても逆サイホン作用が起きないように、シンクにホースを垂らした状態を作らないことが大切です。
吐水口空間って何だ
逆流を防ぐ1番確実な方法はホースの先端をシンクより上に保つことです。(ホースを付けないのが1番いいですけど。)
そうすれば水道側が負圧になっても水を吸い上げることはありません。ストローを水面に付けなければ水は吸えませんよね?それと一緒です。
そして、このときできる蛇口とシンク上端の間の空間を吐水口空間と言います。

吐水口空間の確保は逆流を防ぐ上で非常に大事な要素なので、皆さんも意識して確保するようにしましょう。
適切な吐水口空間の広さとは
吐水口空間の広さは厚生省の省令で決められていて、水道の太さ(呼び径と言います)によって変わります。
一般家庭の水道で言えば、25㎜が原則で、お風呂に限り50㎜確保できれば問題ないと思っていいでしょう。
吐水口空間の広さ一覧 ⇒ 厚生労働省のページ
給水装置の構造及び材質の基準に関する省令
第五条 水が逆流するおそれのある場所に設置されている給水装置は、次の各号のいずれかに該当しなければならない。
二 吐水口を有する給水装置が、次に掲げる基準に適合すること。
イ 呼び径が二五ミリメートル以下のものにあっては(中略)越流面から吐水口の最下端までの垂直距離が確保されていること。
吐水口空間の広さは建築士試験でも出てきます。建築設備のマイナーな問題なので、比較的難問になりやすい傾向があります。この記事を読んだあなたは吐水口空間をイメージできるので、試験対策として1歩リードできたかもしれません。
まとめ:正しい理解で清潔な水を
いかがだったでしょうか。
我々の生活は水道に支えられていますけど、健全な水道システムは我々の運用にかかっていることをご紹介しました。
今まで吐水口空間を意識せずにホースを使ったりしていた方。
意識しましょう。
よろしくお願いします。